ロスト・クロニクル~前編~


「全部、作ったのか?」

「当たり」

「メルダースで勉強するより、仕立て屋として働いた方がいいんじゃないか。これ、凄いぞ」

「そうか」

「すぐに、商売できるね」

「嬉しいな」

 エイルの高評価に、相手は自信たっぷりの表情を作る。エイルの言葉には全く嫌味はなく、それだけ仕立てられた服が立派だった。また腕前が高いのは彼だけではなく、他の生徒の腕前も高かった。

 レベルの高い衣装を目の当たりにすると、頑張って与えられた役を演じなければいけないと思う。下手したら役を演じる者が衣装に食われてしまい、見っとも無い舞台になってしまう。

 エイルはひとつひとつの衣装を手に取ると、自身の目の前で広げ観察していく。時折溜息を漏らしては衣装の出来に感心し、正直な感想を口にしては周囲で働く生徒達を喜ばせた。

「さて、仮縫いだ」

「ああ、そうだった」

「お前の髪の色に合わせてみた。それに役が役だから、豪華な感じにしてみたぞ。金の心配はないし」

「無駄に立派だね」

「王子は立派じゃないと」

「まあ……ね」

 エイルの為に作られた衣装は青と白を基調とした重厚な礼服であり、これを衣装として使うのは勿体無いほど作りが細かい。そして生地は高級な物を使用しているのか、手触りがいい。

 立場が立場なので何人もの貴族の子息に出会い彼等が着ている服装を見てきているが、この衣装はその人物が着ている服と見間違う出来。いや、此方の方が全ての面に置いて上だった。

「仮縫いで、これほど……」

「気合を入れた」

「尊敬するよ」

 高評価と「尊敬」という言葉に、相手は徐々に口許が緩んでいく。褒められて、怪訝な顔をする者はいない。それに滅多に誰かを褒めないエイルが、このように絶賛するのは異例なことなので、相手は嬉しそうにこの衣装を作る過程と苦労と工夫の数々を語っていった。