「おお、凄い凄い」
「騒ぎ過ぎだよ」
「いや、普通だね。で、これだけお前が人気なんだよ。お前が実家に帰ると聞いて、寂しがっていた女もいたし。ところで、好意を持っている相手はいないのか? 選り取り見取りじゃないか」
「いない」
まさに、即答だった。彼が故郷クローディアにいるマナに言ったように、メルダースの生徒の中に特別な感情を抱く相手はいない。失礼ながら、プライドの塊のような人間に興味はない。
だが、彼女達はエイルの気持ちを察していないので好き勝手に騒ぎ、メルダース中の生徒に演劇の件と、エイルが主役を演じると話していく。その結果、建物の中に黄色い悲鳴が響く。
「大袈裟すぎる」
「いいじゃないか。楽しいし」
「主役を演じないから、そういうことを言えるんだよ。気晴らしに、ラルフのところへ行ってくる」
「了解。何か決まったら、連絡するよ」
「……うん」
予想以上の反響に、疲労が蓄積していく。エイルは溜息を付いた後、荷物を引き摺り最初は自室へ戻って行く。そして簡単に荷物の整理を行うと、ラルフの部屋に乗り込んだ。そして愚痴を言おうと口を開いた瞬間、相手の甲高い声音がそれを遮る。どうやらラルフの耳にも演劇の話が届いたらしく、何を思ったのか自分も役が欲しいと言う。しかし、それが叶うわけがない。
ラルフの我儘にエイルはヒラヒラと手を振り冗談を言ってはいけないというが、ラルフの目は本気だった。普段の彼であったらエイルの言葉を聞き素直に身を引いているが、今日は何処か違う。
エイルがクローディアに行っている間、ラルフの身に何かが起こったのか。真剣な表情で「悪い物を食べたのか」と、聞く。勿論、そんな物は食べてはいない。彼自身の本音だった。
「無理」
「何で」
「誰も望まない」
周囲に多くの生徒がいたら、全員が同時に頷いているだろう。それだけラルフの評判は悪く、一部の生徒に至っては嫌悪感を抱いているほどだ。だが、彼等の気持ちに気付いていないラルフは、とんでもないことを口にする。そう、ラルフは主役を演じたいと言いだしたのだ。


