「金に問題がないのが、一番有難いね。演出と道具類は、台本が仕上がってからだろう。まあ、その前に主役とヒロインは決めた方がいいね。まだ、台本役に詰め寄っているようだから」
「だね」
クラスメイト達の意見に、エイルは何度も頷く。現在の状況を考えると主役とヒロイン決めに絶対に時間が掛かると思われたが、クラスメイトは「主役は決まっている」という。その言葉にエイルは首を傾げると、一斉に彼に向かって言葉が飛んでくる。そう、主役はエイルだった。
「僕!?」
「そうだよ」
「何で」
「主役って、台詞が多いのが定番だからね。だから、記憶力がいい人がなるのが、一番だから」
「安直」
「でも、主役って目立つぞ」
「別に、裏方でいいよ」
エイルは自主的に表に立って何かを行う性格ではないので、主役として演劇を行う気にはなれない。しかし周囲は、エイルに主役を演じて欲しいと頼む。何より、見た目がいいからだ。
「そう?」
キョトンっとしているエイルに対し、周囲はやれやれと肩を竦めていた。自覚症状がないのが一番厄介であり、彼の周辺にいた者達が一斉に笑い出す。そして一人の生徒がポンポンっと肩を叩くと、自分がどのように回りから見られているか自覚した方がいいと指摘する。
そのように言われたところで、エイルが自覚するわけがない。彼は「本の虫」であり、異性がどのように見ているのか全くといって興味がなかった。その為、反応に困り渋い表情を作る。しかし望まれて役を演じるのはある意味幸せなことで、エイルは「本当に?」と、尋ねていた。
「やってくれるのか?」
「そう言うのなら……」
「よし、決定」
「おーい! 主役が決まったぞ」
エイルが主役に就くと決まった瞬間、台本を書く生徒に詰め寄っていた女子生徒達が食い付く。流石、女子生徒が気に入る人物。彼女達は目には怪しい色を湛えると、自分がヒロインの役に就きたいと騒ぎ出す。その後、一種の「修羅場」に近い状況を作り出していた。


