ロスト・クロニクル~前編~


 しかし、問題が発生する。

 演目は、何がいいか。

 その時、一人の男子生徒が名乗り出る。何でも物語を書くのを得意としているらしく、演目の台本を書いてもいいという。勿論、誰も反対はしない。寧ろ、やって欲しいと頼んだ。

 彼が考えているのは、王道のファンタジー。剣と魔法を主とし、王子との身分違いの恋物語。

 それを聞いた女子生徒が、一斉に騒ぎ出す。彼女達にとって身分違いの恋は一種の憧れであり、現実では有り得ないことなので物語の中だけでも楽しみたいのだ。それが関係してか、周囲が殺気立つ。

「ねえ、王子役って誰かしら?」

「台本が出来上がっていないのに、王子役って……」

 しかし、最後まで言葉がつむがれることはなかった。それは女子生徒の殺気に、負けてしまったのだ。彼女達は台本を書く男子生徒に詰め寄ると、王子とのラブシーンがあるかどうか尋ねる。

「い、一応……」

「キスシーンは?」

「キ、キス!」

「恋愛小説には、つきものよ」

 彼の構想の中には当初、キスシーンなど入る予定がなかったのだが、このように詰め寄られると入れないといけなくなってしまう。それに入れなかったら、後で何を言われるかわかったものではない。半殺しは確実で、下手したら吊るされてしまう。それを想像した瞬間、悪寒が走った。

 今回の演劇は「全員で仲良くやっていこう」と男子生徒の面々は考えていたが、どうやら主導権は女子生徒が持っているらしい。彼女達が台本を書く人物に詰め寄る姿を見ていると、自分達に主導権がないことを改めて知る。それに無用な争いを避けた方が、物事は上手くいく。

 その瞬間、男子生徒達が一斉に溜息をついた。

 だが、いつまでもへこんでいる場合ではない。この件により、女子生徒の協力が当てにならないと判明したからだ。すると一人の生徒が咳払いをした後、今後に付いての提案をしていく。

「台本は決まった。後は、どうする」

「他のクラスに伝えた後、出演者を決めていく。あっ! その前に台本か。えーっと、衣装と大道具と小道具を作る人物も捜さないと。その次は、演出? 他は、何が必要かな。予算面は、学園長が何とかしてくれるし……金の面は、問題ないだろうね。学園長って、面白いことにはお金掛けるし」