ふと、エイルはラルフを開放するとポンっと手を叩いていた。そう、肝心な事を思い出したのだ。
エイルがクローディアに戻っている間、あの突然変異の地上最強の植物〈マルガリータ〉は、昔のままの姿を保っているかどうか。個人的には枯れてしまって欲しいと考えているが、あの植物が簡単に枯れるわけがない。エイルは満面の笑みを浮かべると、真相を尋ねた。
それに対しラルフは、何を思ったのか愛しのマルガリータのことを熱く語っていくのだった。
「マルガリータちゃん。元気だよ。逞しく成長していて、前より背丈が伸びたような……って、エイル君?」
「へえ、そうなんだ」
最初は、満面の笑みを浮かべていたエイルであったが、いつの間にか無表情に変わっていた。
その表情に身の危険を察したラルフは、語尾が徐々に小さくなっていく。反射的に逃げ出そうと試みるが、エイルの目の前でそれができるわけがない。また、周囲の生徒達は敵同然。
一部の生徒が、ラルフの怪しい行動を察すると、瞬間一斉に手を伸ばし彼の制服を掴んだ。
「逃げるな」
「だって、目付きが怖い」
「お前が、マルガリータを成長させているからだ。あんな突然変異の怪しい植物を、よく育てられるな」
「いいじゃないか」
「悪趣味」
「可愛いじゃないか」
「気色悪い」
エイルの言葉に、ラルフ以外の全員が一斉に頷く。その一糸乱れない姿に、ラルフは絶叫する。
しかし、誰も聞いてくれない。
「酷い」
「いや、正しい反応だよ」
「植物にはかわりないぞ」
普通、自然界であのようにぶっ飛んだ進化は有得ない。それに進化というものは長い年月を掛けて行われるものであって、短期間の進化も有得ない。しかしラルフは、進化の常識を覆すことを行った。これはこれで凄い実験結果なのだが、内容が褒められるものではない。


