今まで、有意義な毎日を送っていた。

 だが、今日で終わる。

 まさに、悪夢のはじまり。

 ラルフの脳裏には、黒エイルの表情が浮かんでいた。

 また、毒を吐かれる。

 そして、関節技を掛けられる。

 ラルフはエイルとの約束を守れていたかどうか、必死に思考を動かし考えていった。幸い誰も迷惑を掛けていないが、ラルフの信頼度は低い。その為、エイルに売られる可能性が高い。

 恐怖の対象が近付いてくることを感じ取るラルフは、布団の中から出ることができないでいた。

 しかし信頼度を高める為には、このようなことで授業をサボるわけにはいかない。震える身体に気合を入れ布団からモゾモゾと抜け出すと、心の中でエイルが事故らないかと祈る。

 その祈りが、天に通じることはなかった。

 これも日頃の不真面目な生活が祟ってか、何事もなくエイルが昼過ぎにメルダースに戻った。

 エイルの帰宅に、友人達が喜ぶ。授業の終わりと同時に彼等は教室から飛び出し、エイルの周囲に集まってくる。そして口々に発せられるのは、故郷で何をやったのか聞いていった。それに対し、エイルは曖昧な言葉を繰り返す。「親衛隊の試験」は、内緒にしたかったからだ。

 それにより、話を横に逸らすことにした。エイルが切り出した話題は、ラルフは、どうしているか。エイルの質問に友人達は「元気にしている」と言うと、一斉に動き出しラルフの捕獲に向かう。

 一方生徒達が発する複数の足音を聞いたラルフは、これまた野生の観で逃げ出していた。しかし寸前のところで大勢の生徒に取り囲まれてしまい、引き摺られる形でエイルの前に姿を晒す。

「久し振り」

「う、うん」

「元気?」

「……多分」

「多分?」

 ラルフの返事にエイルは首を傾げ再度聞き返すが、返事は返ってこない。そのことにエイルは友人達に、自分がいなかった時の状況を尋ねる。すると友人達は、例の状況を面白おかしく話していく。エイルとの約束が効いていたのか、ラルフは一切実験と研究を行わなかった。