ロスト・クロニクル~前編~


「知らないの?」

「うん」

「普段、床掃除を――」

「しているわ。でも、床掃除はモップを使用していることが多いの。だから、雑巾のことは……」

「そうなの?」

 語られる日頃の仕事の内容に、ジャネットは首を傾げてしまう。バゼラード家で働いているメイドは、それぞれきちんと仕事場所が割り当てられている。そして一箇所に複数のメイドが就き、仕事をこなしていく。そして割り当てをしているのは、家政婦のリンダであった。

 その為、仕事の仕方を知っていてもいい。

 なら、どうしてか。

「掃除をしていると、周囲が見えなくて……」

「真面目ね」

「それ、他の人にも言われたわ」

「そんなに気張らなくていいのに。それが、マナの悪い部分かもしれないわ。もっと、気楽に……ね」

「う、うん」

「じゃあ、雑巾の使い方を教えるわ」

「お願いします」

「もう、本当に真面目ね」

 ジャネットの考えは正しい。現に、バゼラード家で働いているメイドの中で、一番真面目に仕事を行っているのがマナだった。ジャネットはモップを壁に立てかけると、目の前で雑巾を開く。

 そして、丁寧に説明していった。

 ふと、疑問が湧く。

 ジャネットは、躊躇うことなく言葉を出した。

「まさか、他の人達がサボっているの」

「それはないわ」

「本当?」

「本当よ」

 必死に「違う」と、何度も言っていく。

 見方によっては仲間を庇っているように思えるが、ジャネットの経験上相手が嘘を付いているとは思わない。それに、バゼラード家のメイドは評判がいい。またマナの真面目な性格を考えると、嘘を想像し組み立てることを得意としていない。なら、言っていることは正しいと判断する。