ロスト・クロニクル~前編~


 額に汗が滲む。

 現役を離れてこの迫力は、半端ではない。

 同時に、疑問が湧く。

 何故、引退したか――

 しかし、フレイの動向と言動を考えていくと、自ずと回答を導き出すことが可能であった。

 親衛隊の隊長では、自由に動けない。

 勿論、今も自由に動けているわけではないが、隊長時代よりはいいだろう。だからこそ、隊長の地位を降りた。

 腰痛の影響で――

 その理由は、建前上。

 本音は違う。

 父親の真意を見抜いたエイルは、自身の考えを口にする。すると回答が正しかったのか、フレイの表情が微かに変化する。

「気付いていたか」

「予想です」

「いや、正解だ」

「やっぱり、そうでしたか」

「親衛隊時代は、周囲の目が厳しかった。確かに今も煩いが、当時を思えばいい方かもしれない」

「厳しいですね」

「それだけ、自身の地位に固執している」

 味方を裏切り敵に寝返った者達は、高い地位を得た。多くを支配し、自習気儘に生きている。

 それを失いたくない。

 だからこそ、必要以上に周囲に目をやる。

 彼等にとってフレイを含め一部の人間は、害虫に等しい。だが、自分の手を汚すことはしない。

 臆病者の集まり。

 夜会で文句を言っていた者達と同じだった。

 手は出さない。

 しかし、文句と愚痴を言う。

 フレイの言葉に、エイルは無言で頷く。短い会話のやり取りであったが、父親が置かれている状況を理解していく。これにより何が何でもメルダースを卒業し、役に立ちたいと強く決意する。それが国の明るい将来に繋がり、課せられた使命を全うする理由でもあった。