動揺を顔色に出してはいけない。
何度も、自身に言い聞かせる。
しかし人生経験の長いフレイ相手に、誤魔化しは通用しない。簡単に息子の変化を見抜くが、指摘は行わない。
ただ、言葉を続ける。
「この国の王家の生き残りは、一人だ」
勿論、エイルは理解している。
現在、クローディアの女王の地位に就いているのはシェラで、年齢は12歳の若い女王である。そしてクローディアは隣国エルバード公国の干渉を受け、混乱の渦に飲まれている。
いや、過去を思えば今はいい方だ。
血の臭いがしない。
現在の状況を生み出したのは、国外の影響だけではない。エルバードという大国の力に魅せられ、国内から裏切り者が生まれたのだ。彼等は王家の人間を邪魔者と判断し、排除の対象をした。
国王夫妻は勿論、次期継承者の王子を殺害するが、唯一現王女シェラは生き残った。その理由は、ミシェル・エルバードがシェラに執着心を持っていたからだ。それも、激しいまでの。
ロリコン公子。
理由は、このようなもの。
それを思い出した瞬間、エイルは苦笑した。
「どうした?」
フレイの言葉に、エイルは紙に文字を書いていく。それは「ミシェル」の名前であり、その名前を見たフレイもまた、口許を緩めてしまう。彼も息子と同等の内容を思っていたのか、相手を馬鹿にする言葉を言った。
フレイが相手を馬鹿にする言葉を言うのは、実に珍しい。だが、それは適切な言葉であり、それ以外考えられない。ふと、エイルがペンを動かす。次に書かれた文章というのは、彼の疑問と意見であった。
「感謝はしていない。女神の導きだ」
息子の疑問と意見に、淡々と回答を述べていく。
誰も、ミシェル・エルバードに感謝などしていない。彼のロリコン体質のお陰で、唯一シェラが生き残ったと――
もしシェラまでも殺されていたら、クローディアの王家は全滅していた。しかし生き残りがいる為に、ギリギリの位置でクローディアは存在しているといっていい。だからといってロリコン体質の馬鹿公子に感謝できるほど、フレイを含め味方の面々の心は広くはない。


