ロスト・クロニクル~前編~


 言葉は厳しい。

 しかし、裏側には愛情が含まれていた。兄の言葉にエイルは、首を振って回答を示していく。

 その反応に最初は苦笑していたが、徐々に表情が緩やかなものへと変化していった。そして最後は、笑い出す。

「本当に、お前は……」

 それが、イルーズの本音だった。

 すると今度は、シーナが言葉を掛けてくる。彼女の第一声は、息子を心配する言葉であった。夫のフレイと息子のイルーズとは違い、涙混じりに語る姿はエイルを更に動揺させた。

 彼女の予想外の態度に、エイルだけではなくフレイとイルーズも驚く。いや、彼等だけではない。側に佇んでいたリンダとマナもどのように反応していいのか迷い、視線を周囲に泳がしている。

 部屋の中に響く、シーナの声音。

 ただ他の者達は、沈黙を続けるしかできなかった。




 数十分後――メイドが呼びに行った医者が、バゼラード家に到着する。医師の診断は長時間掛かると予想していたが、意外にも短時間で終了し、診断結果は「薬の飲み過ぎ」という、何ともわかり易い結果だった。

 舌が痺れているので飲み薬を飲むのは辛いということで、腕に注射をうたれてしまう。エイルは注射を嫌っているわけではないが、といって好きではない。それにより、注射をうたれると同時に寝台に横になってしまう。

「エイル様」

「うん?」

「具合は、どうでしょうか」

「うーん、うん」

「それなら、いいのですが」

「うん」

 オドオドした態度で、マナは質問を繰り返す。しかしエイルからの返事は「うん」の言葉のみ。

 それでも、マナは理解していた。

 雰囲気と声音の強弱。それらを総合して、判断を下していたのだ。相手からの反応に、ホッと胸を撫で下ろす。医師の診断を受けている最中、心配で仕方がなかった。「解熱剤の影響で、悪い病気に発展して……」と悪い方向に想像が働き、顔から血の気が引いていたのだ。