強く抱き締められていることにより、マナの身体全体に痛みが走り彼女の顔が歪んでいく。
「エ、エイル様」
囁くような声音で、名前を呼ぶ。
しかし、相手の反応はない。
身動ぎして逃れようと試みるが、力の無いマナがエイルの腕から逃れることはできなかった。
今はエイルの胸元に顔を埋め、懸命に耐えていく。だが、悪い気分はしていない。相手の一定のリズムを刻む心音が、心地よかったから。一方マナの場合は早鐘のように打ち鳴らされ、一気に顔は紅潮していった。
今、異性に抱き締められている。
それも、相手は――
現在の状況は、いらぬ妄想を招く。
温もりが気持ちいい。
温かい。
当初オドオドとしていたマナであったが、エイルの体温の心地良さに、気分が安らいでいく。
相手は、自分が働いている屋敷の主人の息子。勿論、相手に特別な感情を抱いてはいけない。
それでも、心が揺らぐ。
恐る恐るマナは震える手で、エイルの頬に触れてみる。その瞬間、指先から体温が伝わってきた。
(……エイル様)
本当であったら懸命に身動ぎし逃れないといけないが、マナはこの状況が長く続けばいいと思う。
誰かが来ないことを願う。
永遠に時間が止まればいいと思う。
はじめて経験する感情に、マナの心臓が激しく締め付けられる。そして、どうすればいいかわからない。
ただ、このままの体勢で過ごす。
その時、再びエイルが身じろぐ。
それにより、マナの身体が開放された。
急に苦しさがなくなったことにホッとするが、同時に寂しいという感情が湧いて出てくる。彼女にとって先程の出来事は、夢物語の中に登場するようなものであった。下手したら一生体験できない素敵なもので、先程の出来事を思い出すと心臓は鼓動し締め付けられてくる。


