誰も、フレイの心配はしない。それは、彼の実力を熟知しているからだ。貴族の面々以外でも、フレイ・バゼラードは有名だ。それにより、無意識にエイルの方を応援してしまう。
仕事の手を止め、魅入る。
息を呑んで。
何度も、剣がぶつかり合う。
見た目として、実力は互角に等しい。しかし剣の道に長けている人物が見た場合、エイルが不利を判断する。フレイは手加減しないと言っていたが、実力を把握する為に少々手を抜いている。
勿論、本気でぶつかってもいい。だが、それを行うと現在のエイルの実力を測ることができないので、最初は手を抜く。それでもフレイの攻撃は力強いものがあり、受ける衝撃は凄まじい。
攻撃のひとつひとつが重く、エイルの手が徐々に痺れていく。これも、長い年月剣を握っていなかった影響なのか。圧倒的な実力の差は、確実にエイルの体力を奪っていった。著しい消耗は全身の毛穴を開き、汗を噴き出てくる。額は汗で滲み陽光を反射させ、艶めかしく輝く。
「踏み込みが甘い」
「はい!」
「それでは、勝つことができない」
「はい!」
的確な指示を受け取り、身体を動かしていく。流石フレイの息子というべきか、素顔に身体が反応を示す。最初、型を覚えているかどうか聞かれた。それに対し曖昧な言葉を述べていたが、今は違う。身体を動かしている中で思い出してきたのか、キレが良くなってきている。
息子の剣裁きに、フレイは口許を緩める。これなら、手を抜かなくていい。本気で攻めても大丈夫と判断する。
次の瞬間、鈍い光沢がエイルの視界に飛び込む。
と同時に、手首が痛む。
恐る恐る、視線を下げる。その瞬間、手首が赤く染まっていることに気付いた。そう、斬られた。
「遅いぞ」
真剣を用いた場合、第一に考えないといけないことが我が身の心配。しかしエイルはそれを怠ったことにより、手首を傷付けられてしまった。手入れが行き届いている剣で斬られたので、傷は深く時間と経過と共に流れ出る血は手を全体に広がっていく。ピリピリとした痛みに、エイルの顔が歪む。それを見ていたフレイは溜息と共に、厳しい言葉をぶつけていく。


