ロスト・クロニクル~前編~


 フレイは、感情で行動を決める性格ではない。その分、実に厳しい。しかし現在の状況を最優先事項として思考を働かせた場合、厳しい一面を示す理由を理解することが可能である。

「手加減はしない」

「わかっています。父さんは、そのような性格ですから。それに、手加減されると気分が悪いです」

「言うな」

「学園長の影響です」

 エイルの言葉にフレイは、喉を鳴らして笑い続ける。流石、クリスティに気に入られている自慢の息子。四年の間、相当鍛えられたのだろう。精神を含め、言葉遣いも変化が生じていたことを喜ぶ。これから先、肉体と精神の両方がタフでなければ、生きていけないからだ。

「いくぞ」

「はい」

 言葉が、合図となった。

 互いに、抜刀する。

 抜刀した瞬間、フレイは切っ先をエイルに向ける。現役を退いて数年というのに、構えた姿に隙は無い。

 父親が親衛隊の隊長の地位から退いた理由は、腰痛に悩まされているから。そう、エイルは聞いている。だが、立ち振る舞いを見ていると、案外「嘘」という言葉が、適切に近い。

 周囲の者はフレイを「食えない人物」と見ている。無論、いい面と悪い面の両方を持っており、エイルの認識としては中間部分というところ。それだけ、フレイは厄介な相手なのだ。しかし、悠長に観察している余裕は無い。父親は、手加減なしで攻撃を仕掛けてくるからだ。

 刹那、乾いた音が響く。

 鉄と鉄がぶつかった時に生み出された音は、屋敷の中で作業していた者達の耳にも届いていた。

 使用人がざわめく。

 それは、当たり前だ。

 使用人の中に、剣の勝負を間近で見た者は少ない。

 バゼラード家の長男イルーズは産まれ付き身体が弱く、発熱で寝込むことが多い。よって、真剣での勝負は無理だ。だが、次男のエイルは違う。長男とは異なり、彼は健康そのもの。それにより、幼い頃から鍛えられていた。古株のリンダや御者のハーマン、それに執事を抜かせば若い使用人達は動揺してしまう。と同時に、エイルが怪我をしないか心配する。