同時に、これ以上の追求は無駄と判断する。イルーズは引き止めてしまったことを詫びると、自身から先に立ち去っていく。その姿は、いつもの態度そのもの。しかし廊下の角を曲がった瞬間、表情が変化した。
言葉は発せず、唇を動かす。
目付きは鋭く、普段の姿とは異なる。
戦略家――
その言葉が似合う、姿だった。
先程、己がいた場所を一瞥する。
その場所に、マナの姿はなかった。
「あの者を――」
それ以上の言葉は続かなかった。
纏っている服を翻し、自室へ戻っていく。途中、数人のメイドとすれ違うが、その時はいつものイルーズの表情に変化していた。誰も厳しい表情を浮かべていた人物と、想像が付かない。それにより、何事もなく自室へ到着することができた。そして、暫しの時間を過ごす。
一方、エイルは――
フレイの前に、立ち尽くしていた。
エイルは先に、言葉を出すことはしない。ただ静かに、父親が呼んだ訳を話すのを待った。
「訓練だ」
「く、訓練?」
「そうだ。久し振りに、お前の実力を見たい。それに、勉強ばかりやって身体を鍛えていないだろう」
「まあ、確かに……」
毎日のように椅子に座り、勉強を繰り返している。運動らしき運動といえば、ラルフを苛めていること。だがそれだけで身体が鍛えられるわけではないので、運動不足は隠し切れない。
「訓練って、どのようなことを――」
「真剣勝負だ」
「や、やっぱり」
フレイの提案――もとい、強制事項にエイルは顔色を悪くする。父親の剣の腕前は、国内一。いや、それ以上の腕前を持っている。その人物と勝負――怪我で済めばいいが、下手したら気絶ものだ。だからといって、否定の言葉は通じない。フレイは、やるといったらやる人物なのだから。


