一見華やかな舞台も、裏は闇が覆う。

 現在のクローディアが、それに等しい状況に置かれている。

 この国の女王は、12歳の少女。

 国民はそのことを知っているが、彼女が権力を有していないことを知る者は一部しかいない。

 クローディアの女王シェラの守護者シードは、日々頭を悩ませている。しかし、いい結論に至ることはない。そもそも考えを巡らしても、一人で勝手に動くわけにはいかないからだ。

 小は、大に勝つことはできない。

 それを理解しているので、シードは口をつむぐ。

 そして言葉に出した場合、我が身が危うい。

 今、シェラの本当の側近は限られている。それに12歳の女王はクローディアの最後の要と前親衛隊の隊長フレイから言い聞かせているので、シードは常に周囲に目を配らせている。

 だが、今日は違った。

 シードは、愁いを湛えた表情を浮かべている。

「……シェラ様」

 部屋の中に、シードの声音が響く。

 だが、反応は無い。

 部屋に二つの気配が存在していた。ひとつは、シード。そしてもうひとつは、部屋の中心に置かれた椅子に腰掛けている十代前半の少女。そう、この人物こそクローディアの女王シェラだった。

 シェラは側にシードがいるというのに、特に反応を示さない。それどころか、無表情で瞳に光が宿っていない。

 心を失った女王。

 そのように、シェラは呼ばれていた。

 全ては、ひとつの事件が切っ掛けとなっている。シードはそれを知っているので、シェラの名前を呼んだ後、言葉が続かない。ただ主人(あるじ)の顔を見詰め、その切っ掛けを思い出していく。

 シェラが、心を失った理由――

 それは、人間の欲が関係していた。

 長い年月、栄華が続いていたクローディア。国土自体は、他の国々に比べ決して大きい方ではない。国力は小国ながら大国――いや、それ以上に匹敵し、北国という厳しい環境ながら国民は平穏に暮らしていた。それは全て、国内で採掘される〈水晶〉が、関係している。