「大丈夫です」
「それなら、いいが」
エイルの具合を確認した後、イルーズはミシェル・エルバードに対しての愚痴を言っていた。相当ストレスが蓄積しているのか、イルーズの言葉には珍しく鋭い刺が含まれていた。
「本当に、あの者は……」
「兄さん」
「調子がいい。それに、物事を理解していない。いや、それは仕方がない。あの者の父親が……」
其処で、言葉が止まる。
反射的に、周囲に視線を向けた。
長く愚痴を言えた場合、ストレス発散になる。しかし同時に自分の立場を危うくしてしまうのを知っているので、途中で愚痴は終わってしまった。続いて、違う言葉をエイルに言う。
「よく耐えた」
「耐えないといけない状況ですから」
「まあ、確かに」
ミシェルと話している間、エイルは化粧と香水の香りに悩まされていたが、雰囲気でそれを訴えてはいけないとわかっていたので、エイルは我慢し続けてきた。それにより、身体がふら付く。
弟の頑張りに、労いの言葉を言う。だからといって、このまま開放するのではない。そう、最後まで参加しないといけないのだ。それを聞いたエイルは、物凄い表情を浮かべてしまう。
「帰りたいです」
「駄目だ」
「逃げます」
「父さんに言う」
「そ、それだけは……」
流石に、フレイに告げ口だけはやって欲しくはない。エイルはクリスティに続き、フレイも恐れている。イルーズはそれを知っているので「フレイ」の名前を威しに使った。結果、エイルは渋々受け入れるしかない。
「宜しい」
弟の言葉に、イルーズは満足そうに頷く。だからといって、すぐに会場に戻ることはしない。彼自身、エイルは化粧と香水に苦労していたとわかっているからだ。それに、不穏なことをする為に外に出ているのではない。普段厄介な存在のミシェルだが、今回役に立った。