ロスト・クロニクル~前編~


 無論、それは失礼な行為であるが、ミシェルと会話をしていると疲れが溜まっていく。何より、世間を甘く見過ぎている。これで将来、一国を背負うのだから……実に、恐ろしい。

「やっぱり、難しいのか。でも、次は狙うよ。入学した時は、宜しく。君には、世話になるよ」

「は、はい」

 楽観的な考え方は、相変わらずのもの。ミシェルは、メルダースに入学しようと考えていた。そして立場上彼は、何でもできると思っていた。思っているからこそ、好き勝手に言い振舞う。

 それが、無謀な行為と周囲は知る。勿論、社交界に参加している全員が、メルダースと学園長のクリスティの恐ろしさを知っているので、小声で語り合っていく。その話のネタはミシェルだが、瞬時に口をつむぐ。それは、イルーズが相手を指摘する言葉を発したからだ。

「でしたら、勉強をいたしませんと」

「やっぱり?」

「先程、そのような話を――」

「ああ、そうだった」

 イルーズの言葉に、ポンっと手を叩く。彼自身、再び裏口入学を試みようと思っているのか、必死に勉強しようと考えていない。相変わらず、このようにヘラヘラと笑っている。クリスティがこの無礼な現場を見た場合、確実に強力な魔法をぶっ飛ばしている可能性が高い。

 そう考えた瞬間、エイルは身体を震わす。それだけ、クリスティの恐怖が身体に染み込んでいた。勿論魔法をぶっ飛ばされた経験は無いが、ぶっ飛ばされているラルフを目撃しているので、身体が反応してしまう。そして徐々に顔色が悪くなり、気分が悪くなっていく。

「あれ、具合が悪い?」

「い、いえ……」

「駄目だよ。涼しい場所で、休まないと。ちょっとの油断で、大事に発展してしまうからね」

「そう言って頂き、有難うございます。エイル、行くぞ。あちらの方が、ゆっくりとできる」

「では、お大事に」

 ミシェルに見送られるかたちで、イルーズはエイルを連れ会場の外へ向かう。途中、誰も不信感を抱かない。公子ミシェルの言葉があるので、このように堂々と外に出ることができた。そして建物の外へ出た瞬間、イルーズが口を開く。それは、エイルの身体を心配するものだった。