イルーズの指摘に、エイルは表情を変化させていく。不快は駄目というのなら、何もいしないのが一番。唇を真一文字に結ぶと、だんまりを決め込む。そして、全てを兄に任した。
「何をしているんだ」
「学生です」
「学生? ああ、勉強をしているんだ」
ミシェルは理解力が一般人より低いらしく、いちいち大袈裟なリアクションを示していく。しかし次の瞬間、イルーズはミシェルにいい話のネタを提供してしまったと激しく後悔する。
何と、相手が食い付いてきたのだ。こうなってしまうと、ミシェルが満足するまで会話が続いていく。相手が迷惑が掛かろうが関係なく、徹底的に楽しみ自己の好奇心を満たしていく。一度捕まると、一時間近くは離れない。まさに、凶暴な亀が噛み付いたに等しかった。
「場所は?」
「メルダース」
「おっ!? 有名な場所だね。以前、入学したいと思っていたが、入学を拒否されてしまった。何が、いけなかったのか。立場的に、入学するに値すると思っていたんだけどね。うんうん」
まさに、自画自賛。そして彼は、自身の地位をフルに利用していると今の言葉で判明する。だが、ミシェルは理解していない。メルダースの学園長ジル・クリスティの性格を――
クリスティはミシェルが持つ性格を一番嫌っているので、裏口入学は絶対に行えない。ミシェルは大金を積めば大丈夫だと認識していたらしいが、それを行って普通でいられるのはある意味奇跡だ。彼女は嫌いと判断した瞬間、徹底的に相手を潰しに掛かり玩具としていく。
悪運が強いのか。
それとも、玩具として遊ぶに値しないのか。
どちらにせよクリスティの半端ではない権力から逃れられたのは、ミシェル一人しかいない。
「勉強、難しい?」
「メルダースが、どのような場所かご存知だと思います。あの学園は、有名な場所ですから」
だが、ミシェルの反応は悪い。本当にメルダースと学園長クリスティの本質を理解しているかどうか、怪しい。いや、それ以前に裏口入学をしようとした時点で、全くわかっていない。馬鹿の青二才――その言葉を思い出したエイルとイルーズは、無意識に肩を竦めた。


