ロスト・クロニクル~前編~


 年齢は、20を過ぎていた。しかし、精神年齢は十代前半。お陰で口調は子供っぽく、言葉を掛けられた瞬間、イルーズの眉が微かに動く。だが相手が相手なので、冷静に装っていく。

「見たことがあるね」

「城で、働いていますので」

「ああ、そうなんだ」

 イルーズの言葉にポンっと手を叩くと、何がおかしいのかクスクスと笑い出す。やはり精神年齢が幼いだけあって、行うことが理解できない。遠くで見詰めている者は冷ややかな視線を向けているが、言葉に出すことは無い。やはり相手が相手なので、言うに言えないのだ。

 周囲は無言の自己主張を繰り返していくが、鈍感のミシェルにそれが通じるわけがなかった。それにより、ミシェルは面白おかしく言葉を発する。勿論、自分勝手の自由気儘の内容であった。

「このような場所へ来られて、宜しいのでしょうか。皆様が、ご心配なされると思います。見たところ、お一人のようですが。他の者に聞いた話ですが、いつもお側にいられる方が見当たりません」

「邪魔だから、置いてきた」

 その言葉に、イルーズは何も言えなくなってしまう。常に側にいる人物――ルーク・ライオネルは、ミシェルの守護者。シードからそのように聞いているイルーズにとっては、信じられなかった。それと同時に、自身がいる立場の重要性を認識していないことを知った。

 社交界の会場は危険の場所ではないが、ミシェルの身分を考えると一人で来ていい場所ではない。何処に彼の命を狙う者がいるかわからず、この調子では簡単に殺害されてしまう。

 しかし――

 内心、殺害を望む。

 無論、言葉に出した瞬間、自身の身が危うくなる。

 だが、皆が思う。

「で、隣の人は誰?」

「弟です」

「おお! 似ている。兄弟って似ると聞いているけど、本当に似ているんだ。うん。凄い凄い」

 一体、何が凄いというのか。子供のようにはしゃいでいるミシェルに、エイルは目を細め不快な表情を浮かべていた。それを見たイルーズは、小声で囁く。相手の機嫌を損ねてはいけない。今、立場は相手が上。それに国内状況を考えると、感情的な行動は国の未来を揺るがす――と。