ロスト・クロニクル~前編~


 一様に、全員が同じ心情を抱いていく。それは、この者と同じ場所に存在したくないという思い。明らかに、相手が苦手の様子。これには馬鹿息子が持っている、人間離れをしたオーラが深く関係していた。

 エイルが語る第一印象は「ラルフと同種」の人間。まさか、あの人間を超越した存在が二人も存在するとは――エイルは、頭痛を覚える。それと同時に張り倒したい心情に駆られるが、エイルは懸命に感情を抑えていく。此処で下手に手を出したら、国際問題に発展する。

 流石に、それは避けないといけない。現在、クローディアの内情は日に日に闇の中に沈んでいっている。それに目の前のミシェル・エルバードに手を出した場合、更に状況が悪化してしまう。

 一瞬、エイルが鋭い切っ先を持つオーラをミシェルに発する。それを過敏に感じ取ったイルーズが、周囲に気付かれないようにエイルの背中を叩く。そして、落ち着くように小声で囁いた。

「大丈夫です」

「それならいい」

「迷惑は……掛けません」

「問題は、ひとつの一族で納まらない。一国を潰す覚悟があるのなら、いってもいいが……」

「痛い言葉です」

 初対面の人物がイルーズという人物を判断した場合、真っ先に「大人しい」という言葉が出る。そして生来の病弱体質が混じり合いイルーズの特徴を形成していたが、本質は違う。周囲の目が厳しいフレイの代わりに動いているだけあって、物事を理解する能力が高い。

 それに口調が厳しく、トゲが含まれることが多い。現に今、弟のエイルに鋭い言葉を発していた。一方エイルは、反論の意思と態度を示さない。彼自身、今の状況を把握しているからだ。

「しかし、一人か」

「一人?」

「常に側にいる人物がいる。その人物が今、何処にもいない。それが、気に掛かって仕方がない」

「場所が場所だから?」

「それならいいが」

 一体、誰のことを言っているのか。エイルの記憶の中に、当て嵌まる人物が一人もいなかった。イルーズの口調からして、その者が「重要人物」ということが判断できる。イルーズが、必要以上に気にしている相手というのは――エイルは目を細めると、ミシェル・エルバードに視線を向けた。