再び、イルーズがクリスティの名を口にする。
その瞬間、周囲に動揺が走った。
この時、彼等は知る。
口は、災いを招くと――
「……気弱だ」
「兄さん?」
「覚えておくといい。彼等は、言葉と態度は一致しない。昔、父さんが言っていた。臆病だから、集まると――」
「参考になります」
気付かれないように囁く本音。それは、適切に社交界に参列している者達の本質を当てていた。
全員が美しく着飾っており、まさに絢爛豪華の言葉が似合う。歩く宝石箱状態というべきか、それらは身動ぎする度に光を反射させていき、角度の関係でキラキラと美しく輝いていた。
纏っている物は、高級な生地を使っている。そして、細かい刺繍の数々。一体、どれくらいの時間を使用して作製させているのか――その努力の数々に、感服することしかできない。持っている資金を湯水のように使い、自分を着飾っていく。それは、特に悪い行為ではない。
しかし、エイルは理解できないでいた。そのことをイルーズに話と、クスクスと笑い出す。
「確かに」
「兄さんも苦手なんだ」
「何も言っていないが、父さんも苦手と言っている。この雰囲気は、独特すぎるからね。それに――」
ふと、途中で言葉が途切れた。刹那、イルーズの表情が一気に青褪めていく。その反応を示したのは、彼だけではない。多くの参加者が同じ表情を浮かべ、互いに顔を見合っている。
会場に、新しい人物が現れた。
別に、それはおかしいことではない。
ただ、相手が悪過ぎた。
「誰?」
「ミシェル・エルバード」
その名前に、エイルは目を丸くしてしまう。勿論、知らない相手の名前ではない。訪れた人物は、隣国エルバード公国の馬鹿息子。クリスティが「馬鹿の青二才」と呼んでいる相手だった。突然の登場――だがよくよく考えれば、相手がこのような場所に来てもおかしくはない。


