だが、相手は全くもって気付いていない。それ以前に、エイルに視線を集中させていたからだ。バゼラード家の次男は、有名な学園に在籍している。そのことは社交界の参列者の全員が知っていることなので、時間の経過と共にエイルとイルーズの周囲に人が集まってくる。
表面上、彼等はメルダースに入学していることを褒め称える。しかし、内心は違っていた。
何故。
どうして。
バゼラード一族だけ、優遇される。
一部だけ、特別扱いされるのか。
華やかな部分に隠されている、どす黒い感情。エイルも本能的に感じ取ったのか、別の意味で顔が歪む。化粧や香水の香り以上に、其方の方が身体に堪える。それだけ、殺傷の力が高かった。
「裏口入学?」
「きっと、そうよ」
「そうでないと、簡単に入学できない」
地位と立場で、勝てる相手ではない。彼等の唯一の成功手段というのは、偽りを述べ罵っていく。何気ない言葉は、周囲の同調を誘う。結果、口々に同じ言葉を言い合い罵倒していった。
予想以上の統一感に、エイルは反射的にイルーズの顔に視線を向ける。一方イルーズはこの状況に慣れているので特に表情に変化はなかったが、話のネタはメルダース。学園長ジル・クリスティの性格を考えると、下手な噂は命取り。一応、イルーズはそれを忠告した。
クリスティの地獄耳は、半端ではない。たとえ何百キロ離れていようが、彼女の耳に届く。
そして――
ぶっ潰される。
「ご注意を――」
「そ、そうだな」
流石に、イルーズの忠告は効果が高かった。社交界は噂の溜まり場なので、メルダースのクリスティの性格等は勿論知っている。知っているが、一度火が付いてしまうと好奇心のまま口走る。
今回、側にイルーズがいたので彼等は救われた。いくら相手を貶す為とはいえ、メルダースとクリスティを題材に用いるのは危険すぎる。何より、クリスティ自身「裏口入学」を嫌う。それを行った時点で、平穏な生活を失ってしまうからだ。それだけクリスティは不正を「悪」と思う。


