「行くぞ」
「……はい」
「背筋を伸ばせ」
「はい」
力強く返事を返す。
そして、大きく深呼吸をした。
その後、会場へ足を踏み入れた。
――視線。
エイルは、複数の視線を身体に感じる。
痛い。
辛い。
苦しい。
様々な負の感情が、入り混じる。
バゼラード家の次男が、あのメルダースに在学している。というのは有名な話なので、どのような人物がバゼラードの次男坊なのか注目の的になってしまう。そして、早速噂話がはじまった。
一斉に人間が動いた為に、気流が誕生する。それにより、化粧と香水の香りが一気に流れ出す。
「……兄さん」
「耐える」
と言われて、簡単に耐えられるものではない。化粧と香水は刺激臭という物ではなかったので、目鼻が痛いことはないが時折咽てしまう。女達は、異性を惹き付ける為に大量の香水を身体にふりかけていく。だがエイルにしてみれば、遠ざける道具となってしまっていた。
「貴方が、そうなの?」
「は、はい」
「可愛い坊や」
四十代後半の女が、真っ先にエイルに言葉を掛けてくる。外見上は、薄化粧だった。しかし香水をふんだんに使用しているので、少し身体を動かしただけで甘い香りが周囲に漂う。
流石に、香水の量が量。エイルだけではなく、周囲にいた者達も同じ反応を示す。香水は適切な量を用いれば異性を引き込む道具となるが、分量を間違えると悪臭へと変化してしまう。彼等は、女に気付かれないように鋭い視線を向ける。そして、無言の圧力を掛けた。


