それがあるので今回は真面目に参加するしかないのだが、エイルの表情は明らかに悪かった。処刑場へ連れて行かれる罪人という言葉が似合い、顔面は真っ青で倒れる寸前だった。
何度もエイルは溜息を付いている姿にマナは動揺し、おろおろとしている。だが、救いの言葉を発することはできない。それに、社交界はマナにとっては別次元の出来事。メイドの身分で勝手に自分の意見を言ってはいけないと知っているので、マナは静かに佇むしかできない。
「マナって、踊れる」
「踊り……ですか」
「どうかな」
「む、無理です」
無論、下級の身分の持ち主が社交界に参加しているわけがない。それに優雅な曲に合わせダンスを舞う経験はなく、何より綺麗に着飾る為のドレスは一着も持っていない。それを知って、態と質問を投げ掛けたというのか。両者の間に存在する身分の差に、マナは俯く。
「ああ、御免」
「い、いえ……」
「質問の仕方が、悪かった。そういう意味じゃないんだ。マナと一緒なら、社交界も面白いかな……とね」
「エ、エイル様!」
「いつかは、誰かと一緒に行くようになるから。それなら、話しやすく付き合いやすい人物がいいし」
その言葉の裏側に、恋愛感情が混じっているのか混じっていないのか。しかし現在のマナに、冷静に判断を下す余裕は存在していない。それにより、妄想が激しく膨張していき顔が一気に紅潮していく。今度は、マナの精神が不安定になる。そして数秒後、彼女は倒れた。
「マナ!」
後頭部が床にぶつかる直前で、エイルに救い出される。突然の出来事に、マナは目を丸くしてしまう。今、身体を両腕でエイルに抱き締められている。メイド服を通しても、相手の体温が伝わってくる。その結果、過度に意識してしまい、先程以上に顔が紅潮し気絶した。
「だ、大丈夫?」
後頭部をぶつけていないというのに、完全に気絶してしまっている。何か、悪い病気が発症してしまったのか。エイルは激しく動揺し、左右に視線を走らせていく。そして必死に周囲に誰かがいないか探るが、今は自室の中。勿論、マナ以外の使用人がいるわけがない。


