不意の攻撃にエイルは身動ぎし、止めて欲しいと訴えていく。しかし、イルーズの動きは止まらない。それどころか、ますます動かす手に力を籠めていく。結果、髪が乱れていった。
「に、兄さん」
「口が悪い」
「そうでしょうか?」
「本当に、悪い」
「それ、前も言いました」
エイルの予想外の反論に、イルーズは苦笑してしまう。流石にそのように言われると、今の行為を止めないといけない。イルーズはエイルの頭から手を離すと、今度は額を指で突っ突く。
「子供扱いしないで下さい」
「年齢、いくつ離れていると思う」
「確か、11歳」
「そうだ」
明確な年齢差に、エイルは言葉が詰まってしまう。同時に、何を言いたいのか瞬時に判断できる。イルーズ曰く「年上に、敬意を示す」ということを言いたかった。確かに、目上の人物に不用意に反論はしてはいけない。だが今回の場合は、確実にイルーズが悪かった。
「ずるいです」
「そうかな」
「はい。そうです」
「本当に、口が悪い」
「兄さん!」
「まあ、いいじゃないか。それに、父さんには言っていない。お前が、香水が苦手だということを――」
その言葉に、エイルはピクっと身体を震わす。流石に、この件は口が裂けてもフレイに言うことはできない。黙っていてくれたイルーズには素直に感謝はできるが、同時に嫌な感情が湧き出してくる。それは、イルーズの口許が緩んでいたからだ。それを見た瞬間、冷たい物が流れた。
「絶対に嫌です」
「何も言っていない」
エイルから間髪いれずに返ってきた言葉に、イルーズは目を丸くしてしまう。無論、イルーズはエイルに何かをするつもりはない。しかし勘違いしているエイルは、更に両手を振って拒絶の意思を示す。そして周囲に視線が行っていなかったのか、椅子からずり落ちてしまった。


