ロスト・クロニクル~前編~


「わかりました」

「まあ、社交界で下手な動きはしないと思う。あの者は、実に頭がいい。いや、良すぎるのか」

 フレイは滅多に誰かを褒めることはしないが、そのフレイが褒めている。それだけ、曲者という言葉が似合う。年齢は、親衛隊の隊長シードと同じ。しかし、年齢以上の経験と実績を持つ。

「父さんは、どう思うのですか?」

「敵か味方か……今の状況では、不明な点が多い。しかし、私利私欲で動く男ではない。それはわかる」

「ええ、そうですね」

 吐き出すように、イルーズは囁く。それに対しフレイは、同調するかのように静かに頷く。

 二人は、それ以上の会話を続けない。イルーズは深々と頭を垂れると、無言で部屋から出て行く。静寂の中に、扉が閉まる音が響く。それと同時に、フレイの長い溜息がそれに混じった。部屋を出ると同時に、イルーズも同じように溜息を付く。そして自室へ向かう途中、様々な考えをめぐらす。

 ルーク・ライオネル。

 何故、あれだけの人物が――

 人生の選択を確実に誤っている。

 だが、それを言葉として表すことはない。

「遠いな」

 ポツリと呟く。

 それが今の本音だった。

 その時、エイルが使用している部屋の扉が開いていることに気付く。イルーズは無意識に近付くと、部屋の中を確かめる。すると視界の中に、黙々と勉強を続けているエイルの姿が映り込んだ。

「エイル」

「うん? ああ、兄さん」

「寝ないのか?」

「それは、僕の言葉です」

「徹夜は、慣れている」

「僕も同じです」

 エイルの言葉に、イルーズは苦笑してしまう。メルダース入学以前は、このように反論をしていなかったが、今はこのように変化してしまっている。嬉しいと思う反面、複雑な心境が強い。それを隠す為にイルーズはエイルの頭に手を乗せると、くしゃくしゃと撫でる。