ロスト・クロニクル~前編~


 二人は、強い信念を持って動いている。

 それが、精神を強くしていた。

 だが、全員がそれを行うことは不可能だった。故に社交界に漂う邪気は、魔を呼び込んでいく。

「護ってやれ」

「わかっています」

「エイルは、参加者が放出する毒に対しての免疫を持っていない。下手したら、ぶっ倒れる」

「はい」

 しかしそれ以前に、エイルは香水の臭いで倒れる可能性が高い。表面上は「メルダースに入学していたので、社交界に参加することができなかった」という理由で片付けることが可能だが、香水が苦手だと聞くと此方の理由が本当の理由ではないのかと、イルーズは思う。

 それを思い出したイルーズは、徐々に顔色が悪くなっていく。その変化にフレイは、どうしたのか尋ねる。それに対しイルーズは、慌てて誤魔化していく。香水が苦手なのはフレイに内緒にしないといけないので、適当にはぐらかしていく。だが、それが違和感を生む。

「本当に、大丈夫か?」

「……ええ」

「それなら、いいが」

「では――」

「待て」

 踵を返し部屋から出て行こうとした瞬間、フレイに呼び止められる。凛とした口調に、イルーズの身体が微かに震えた。そしてゆっくりと自身の父親の顔に視線を向けると、口を開く。

「何でしょうか」

「あの者に、気を付けろ」

「あの者?」

「ルーク・ライオネルだ」

 その名前を聞いた瞬間、イルーズの顔から血の気が引いていく。無論、その名前が誰を示しているのか知っている。知っているからこそ、二人の間に張り詰めた空気が漂っていた。

 二人にしてみれば、以前の話の中に登場した「公子」という人物より重要だった。彼が動いた場合、全ての行動に目を向けないといけない。それほど、彼の動作には深い意味が込められていた。だからフレイは、イルーズに、ルーク・ライオネルという人物を注意しろと言う。