ロスト・クロニクル~前編~


 物事の本質を知らない者に、不必要な動揺を与えてはいけない。それは、親と兄の優しい心遣いだった。何よりこの件には、多くの人物を巻き込む。だから、表情が強張っている。

「……話があった」

「一体、何が……」

「公子殿が、来るらしい」

「ほ、本当ですか」

「何故、嘘を言わないといけない」

「た、確かに」

 フレイの言葉に、イルーズは顔面が徐々に真っ青に染まっていく。相当「公子」と呼ばれる人物が苦手なのか、何度も溜息をついていた。それは、フレイも同じ真情を持っている。

 二人の間に、不穏な空気が漂う。

 同時に、溜息をついた。

「何故です」

「いつもの気紛れだ」

「普段、一箇所に止まっているというのに……本当に、あの方の行動は読めません。シードも嘆いていました」

「あの者の苦労は知っている」

 シードは現在親衛隊の隊長の地位に就いているが、以前はフレイがその地位に就いていたので、シードの性格と苦労は手に取るように理解している。彼は、人前で愚痴ることはない。しかし相当のストレスを溜めているのは間違いなく、数日前に出会った時「やつれた」と印象が強かった。

 馬鹿の青二才――

 クリスティがそのように表現していると、エイルが言っていた。あの時は笑って済ましていたが、よくよく考えていくと実に厄介な相手だと認識することができる。それが、今回の件だ。

 今まで、社交界――特に、夜会に興味を示していなかった。だがどのような切っ掛けが生じたのか不明だが、参加するという。フレイは痛む額を押さえると、珍しく愚痴っていた。

「……父さん」

「表立って物事が言えないのが、辛いことだ」

 その言葉に、イルーズは深く頷く。一見、平和に見えるクローディアであるが、内情は深い闇に覆われていた。その証拠に、物事を好き勝手に喋ることができないのだ。特に込み入った話の場合は、注意しないといけない。そしてフレイは、イルーズしか愚痴を言わない。