彼の提案に、マナは何度も頷き返す。その嬉しそうな態度にエイルは、この提案が間違っていなかったことを知るが同時に食生活を疑問視する。エイルは、日頃どのような物を食べているのか尋ねる。そもそもバターは高級品ではないので、酪農が盛んなこの国では簡単に手に入れられる。
マナは、それを食していない。
エイルは首を傾げると、更に質問を繰り返す。それは、乳製品全般を食べているかどうかだ。
「た、食べてはいます」
「います?」
「その……小食ですから」
しかし、そのような理由で乳製品を多く摂取していないという理由には当たらなかった。それに他のメイド達に比べ、マナの身体は華奢という言葉が似合う。それを考えると、無理に食事を抜いているのかと心配になってしまう。現にエイルも過去、同じであったからだ。
「食べないと、もたないよ」
「だ、大丈夫です」
「……そう」
エイルに心配を掛けたくないのか気丈に振舞っていくが、逆にそれが違和感を生み出す。エイルは短い溜息をつくと、籠の中に包丁を入れる。そして何も言わず立ち上がると、勝手口から厨房の中へと入って行く。その一連の動作にマナは、ただオロオロとするしかない。
悪いことをした。
怒らせた。
負の要素が脳裏を過ぎり、皮むきに集中できない。そして視線を勝手口の方向に向け、エイルの帰りを待つ。
数分後――
勝手口から出て来たエイルの手には、小さい皿に盛られたチーズがあった。マナと視線が合った瞬間、目の前に差し出す。そして一言「食べていいよ」と言うが、マナは手を出さない。
「本当に、宜しいのですか」
「何、遠慮している」
「私は、使用人です」
ハッキリとした口調でそのように告げるマナに、エイルは苦笑いしか浮かべられなかった。数日間の付き合いで判明した、マナの特徴は「真面目」そのもの。この場合は真面目というより、頑固に近い。しかしエイルは、使用人だからという理由で断るのは嫌いだった。


