ロスト・クロニクル~前編~


 クローディアが存在している場所は、ルーリアと呼ばれている大陸の北部で、周囲を万年雪が積もるエリディア山脈が聳えている。それに樹海という名前が相応しい、針葉樹林も存在した。

 北国の小国――そして、一年の半分が雪に沈む。

 無論、周囲に海という物に面していないので、国民の中には海が「巨大な湖」ということくらいしか知らない者も存在するという。現にエイルもマナも一度も海を見たことがないので、エイルの説明にマナは首を傾げてしまう。見たこともないもの……想像が困難らしい。

「海は、塩辛いと聞く」

「塩辛いのですか?」

「……らしい」

「舐めてみたいです」

「経験、してみたいよね」

 エイル自身、海に関しての知識は本で学んだくらいなので、詳しく話すことができない。大陸南部ブレイダ共和国に暮らしているラルフなら、海を詳しく知っているだろう。ブレイダは魚介類で有名な国なので、ラルフは故郷に暮らしている時、夏の時期は海で泳いでいたという。

 あの人間を超越したラルフに、エイルは話を聞きたいとは思っていない。それにラルフに頼るのが、嫌いだった。彼の性格を考えると、得意顔で話していく。そうすると、相手に平手が飛ぶ。

「海、行きたい?」

「できましたら……」

「僕も、行きたい」

「海には、面白い生き物がいるのですね」

「そうらしいね。確か……海老だったかな? メルダースで食べたことがあったけど、美味しいよ」

 それを聞いたマナは、目を輝かす。それと同時に、羨ましいと思ってしまう。そもそもクローディアに生の海産物を輸入するのは不可能で、長旅の結果全てが腐ってしまうからだ。その結果、川魚が有名な国だった。

 川魚は独特の香りを持っているので、多くの香草によってそれが消され美味しく料理されているが、エイルは川魚の料理が好きだった。それに、川魚を食べると故郷を思い出すという。

 メルダースが存在するエルベ王国は、海に隣接している国なので海産物は多い。しかしブレイダのように豊富な魚介類が取れる国ではないが、大体の海産物を食することができる。やはりそれでも、エイルは川魚が好きだという。それを聞いたマナは、クスクスと笑う。