ロスト・クロニクル~前編~


「僕こそ、有難う」

 互いに支えあっている兄弟だからこそ、言える言葉。イルーズがエイルを頼りにしているように、エイルもイルーズを頼りにしていた。故に、兄弟の絆は深い。同時に、感情も共有する。

 馴れ合いをしているのではない。特殊な世界に生きている者同士、一種の戦友に等しかった。

 それほどこの世界は辛く厳しく、一族の名は過度に圧し掛かる。結果、無意識に礼の言葉を述べ合う。

 ただ、それだけのことだった。




 自室へ入った瞬間、エイルは真っ先に寝台へ視線が行った。其処に山積みされている物は、角を揃えて畳まれた服。それらは丁寧に繕ってあり、尚且つ洗濯もされていた。それに、室内が輝くほど綺麗だった。

 塵ひとつ落ちていないのは、このような光景を示すのだろう。それほど、美しく掃除されている。

「……凄いな」

 信じられない光景に、エイルは嬉しいどころか逆に動揺してしまう。メルダースの寮の自室は定期的に掃除を行っているが、これほど綺麗に掃除をしたことは一度もないので、落ち着かない。

「一体、誰が――」

 脳裏にマナの顔が浮かぶと、その瞬間エイルは苦笑いを浮かべていた。繕いの仕事を頼んだだけだというのに、まさか此処までしてくれるとは――まさに、メイドの鏡といえる人物であり、エイルは嬉しかった。しかし、それと平行して「悪い」という感情も湧いてくる。

(後で、お礼を言わないと)

 実家のメイドは優秀とシーナから聞いていたが、想像以上の働きを見せている。彼女達は自分が行っている仕事に誇りを持っているのか、料理以外の全ての仕事をしてくれることに感謝しきれない。

 特に、クローディアの冬は肌に堪える。その中で愚痴ひとつこぼさず働いているのだから頭が下がる思いがした。

(そういえば、仕事は終わっているのかな)

 マナの顔を思い出した瞬間、約束事も思い出す。だが、マナはメイドなので通常の時間帯は仕事をしている。現に今も、メイド達は慌しく仕事を行っている。エイルは自室から出ると、メイド達が使用している休憩室へ向かう。そして、マナが今どうしているのか尋ねた。