ロスト・クロニクル~前編~


「フランソワー、お前の飼い主は非情だな。お前を見捨てたぞ。やはり、自分が大切なんだ」

「そんなことはないよ」

「見捨てただろ? 嫌いだという、否定の意思を示したくせに。あれは、どのように説明する」

「誰だって、回復魔法の実験台は拒否するよ?」

「ふーん、じゃあいいや」

 あっさりと諦めたエイルに、ラルフは嫌な予感がする。

 いつもなら粘ってくるのに、今日は何だか違う。

 とんでもない何かが起こる前触れ、そう感じたラルフはその場から逃げようと試みる。

 だが、出入り口はエイルの目の前。

 そこから廊下に出ようものなら、すぐに見つかってしまう。

 なら、窓から外に逃げる方法しかない。

 その結果フランソワーは置いていくことになるが、我が身が大事。

 “愛する”と言っていたことは、嘘へと変化した。

 所詮、ラルフの愛情はそこまでだった。

 すると逃げようとするラルフに、フランソワーが擦り寄る。

 飼い主が逃げるのを察したのかそれとも愛情表現なのか、予想しなかったフランソワーの行動に逃げるタイミングを失う。

「何をしようとしていたのかな?」

「いやー、帰ろうかと」

「フランソワーを置いて?」

「後で、迎えに来るよ……はっ!」

「やっぱり、逃げようとしていたね。フランソワー、非情な飼い主をどう思う? このような飼い主は、いらないよね。なら、思いっきり噛み付いてしまおう。お前の顎なら、一撃だ」

 爽やかな笑顔でフランソワーを焚き付けるエイルは、もはや友人という生易しい存在ではなく、完璧に悪魔と化していた。

 ラルフは、エイルの裏の一面を見たような気がし、脳裏に「腹黒」の言葉が浮かぶ。

「いや、顎強力だし」

「愛するとか愛しいとか、言っていたペットだろ? 何、もう嫌いになったのか。残酷だね」

「でも、噛み付くのは……」

「一種の愛情表現だと思えば、いいじゃないか」

 いいも悪いも、フランソワーに噛み付かれたら骨が粉砕してしまう。

 そのことは、飼い主であるラルフが一番良く知っていた。

 しかしそれを否定するかのようにエイルは、優しくフランソワーの身体を撫で自分に懐かせていく。

 その瞬間、ラルフはエイルの恐ろしさを知る。