「フランソワー、お前の飼い主は非情だな。お前を見捨てたぞ。やはり、自分が大切なんだ」
「そんなことはないよ」
「見捨てただろ? 嫌いだという、否定の意思を示したくせに。あれは、どのように説明する」
「誰だって、回復魔法の実験台は拒否するよ?」
「ふーん、じゃあいいや」
あっさりと諦めたエイルに、ラルフは嫌な予感がする。
いつもなら粘ってくるのに、今日は何だか違う。
とんでもない何かが起こる前触れ、そう感じたラルフはその場から逃げようと試みる。
だが、出入り口はエイルの目の前。
そこから廊下に出ようものなら、すぐに見つかってしまう。
なら、窓から外に逃げる方法しかない。
その結果フランソワーは置いていくことになるが、我が身が大事。
“愛する”と言っていたことは、嘘へと変化した。
所詮、ラルフの愛情はそこまでだった。
すると逃げようとするラルフに、フランソワーが擦り寄る。
飼い主が逃げるのを察したのかそれとも愛情表現なのか、予想しなかったフランソワーの行動に逃げるタイミングを失う。
「何をしようとしていたのかな?」
「いやー、帰ろうかと」
「フランソワーを置いて?」
「後で、迎えに来るよ……はっ!」
「やっぱり、逃げようとしていたね。フランソワー、非情な飼い主をどう思う? このような飼い主は、いらないよね。なら、思いっきり噛み付いてしまおう。お前の顎なら、一撃だ」
爽やかな笑顔でフランソワーを焚き付けるエイルは、もはや友人という生易しい存在ではなく、完璧に悪魔と化していた。
ラルフは、エイルの裏の一面を見たような気がし、脳裏に「腹黒」の言葉が浮かぶ。
「いや、顎強力だし」
「愛するとか愛しいとか、言っていたペットだろ? 何、もう嫌いになったのか。残酷だね」
「でも、噛み付くのは……」
「一種の愛情表現だと思えば、いいじゃないか」
いいも悪いも、フランソワーに噛み付かれたら骨が粉砕してしまう。
そのことは、飼い主であるラルフが一番良く知っていた。
しかしそれを否定するかのようにエイルは、優しくフランソワーの身体を撫で自分に懐かせていく。
その瞬間、ラルフはエイルの恐ろしさを知る。


