ロスト・クロニクル~前編~


 その時、部下の報告が入った。それは、アルフレッドが粉砕した煉瓦の片付けが終了したという報告であった。報告を受け取ったシードは、視線を会場へ向けると同時に厳しい表情へ変化させていく。先程は敬意を示しているフレイの話で表情が緩んでいたが、今は――

 親衛隊の試験の最中。

 シードは、隊長の一面を前面に出す。

 そして、試験の再スタートを命じた。

 しかし、アルフレッドの姿は会場の中に存在していない。壁の粉砕と同時に、言葉が煩く他者に迷惑を掛けてしまうと判断が下されたからだ。それにより、会場の外へ追い出された。

 シードの命令に対して、文句を言う人物は一人としていない。逆に、清々した面持ちを浮かべていた。

「次は――」

 シードの低音の声音が、会場に響き渡った。その瞬間、再び緊張感が一気に周囲を覆った。

 二番目の対戦者は――

 エイルの名前が、呼ばれた。

 エイルは、魔法で勝負を挑もうとはしなかった。普通、得意分野で勝負を挑むものだが、相手が魔法を使用できるとは限らない。それに相手は、剣を持っていた。それなら同等の武器を用いて挑むのが、礼儀というもの。フレイから直接剣を学んでいるのでエイルは剣を使えるが、正直得意ではない。

 エイルは、アルフレッド並の馬鹿力は持っていない。それにより、一撃で気絶――というのは、有り得ない。一対一の真剣勝負に、技と技の対決。初回の剣勝負より、見応えが高い。

 メルダースで長く勉学に勤しんでいたので、他の受験者に比べ筋肉の質が高い方ではない。だが、剣を振れないほど衰えてはいない。エイルは荷物と一緒に持ってきた剣を手に取ると、鞘から抜き出す。一般の剣より等身が短く細いが、使用者の技量で強くも弱くも変化する。

 周囲もそれを理解しているのか、批判の言葉を述べる者はいない。一方エイルの対戦者も、同じように抜刀する。

 互いの視線が合う。

 そして――

 それぞれ、剣を構えあった。二人の構え方は、独特の特徴を持っている。特にフレイ直伝の為に、エイルの構え方を知っている者は多い。それにより、親衛隊の面々が小声で囁き合う。隊長のシードの構え方に似ていが、状況が状況なのでそれを指摘する者はいなかった。