「ところで、君は――」
「何でしょうか?」
「いや、間違っていなければ――」
シードはエイルの顔を見た途端、何処か驚いた表情を浮かべていた。だが、それを瞬時に言葉として表すことはしない。一瞬「間違い」という思いが、脳裏を過ぎっていたからだ。
「名前は?」
「エイルです」
「いや、下の名前だ」
「……バゼラード」
シード以外に聞こえないように、小声で囁く。無論、シードはこのファミリーネームを知っている。これは、前親衛隊隊長の名前。そしてエイルが前隊長フレイの息子とわかった瞬間、顔付きが変わった。
だからといって、贔屓はしない。全ては実力主義の世界なので、其処に私情を混ぜてはいけない。だがフレイの息子が試験を受けに来たとわかった瞬間、その実力の程を知りたいと思いはじめる。フレイはシードの元上司であり剣の師匠なので、必然的に審査が厳しくなってしまう。
「フレイ様は?」
「元気です」
「そうか」
「お聞きしています」
「私を?」
「はい」
フレイは滅多に、親衛隊時代の話を語ることはしない。嫌な思い出があったというのが主だった理由で、その他に話す理由がないというのが理由に含まれる。そして滅多に話さない内容の中で、必ず登場するのがシードという人物で「自慢の部下」だったというのがフレイの口癖であった。
「……フレイ様」
「それ以上、多くは語っていません」
「いや、構わない」
シードは、それで十分であった。尊敬しているフレイが自身を絶賛しているだけで、満足だったのだ。
フレイは、目標の人物。しかし高みに存在している人物であるので、なかなか近付くことができない。その人物の後を継ぎ、隊長の地位に就いている。時折、地位に押し潰される感覚に陥ることも多いが、シードはその地位を全うしていく。それが、役割であるからだ。


