しかし次の瞬間、満面の笑みを浮かべてしまう。エイルに出会っていなければ、一次試験で不合格の対象をなっていた。エイルにしてみれば最悪な出会いだが、アルフレッドは女神の導きだと感謝する。
硬い筋肉で覆われているアルフレッドの脳味噌は、凝り固まった影響で動脈硬化を起こしているので血の巡りは激しく悪い。それを上手く導いたのは、エイルという存在。アルフレッドは女神が使わした使者にその丸太のように太い腕で抱き締めようとしたが、寸前でかわされる。
「何ですか」
「感謝の印で……」
「気持ち悪いです」
「エイルのお陰で、一次が合格したし……」
「すぐに、二次がはじまりますよ」
その言葉が示しているように、親衛隊の面々が準備を進めていた。一次試験の篩によって大多数が減り、今この場所に残っているのは十数人。しかし、普通これだけ一気に減るものだろうか。
それに一次試験はそれほど難しい内容ではないが、人生経験の甘さが影響しているのだろう。エイルは心の中で、メルダースで学習していて良かったと心から思う。お陰で、酸いも甘いも噛み分けることができた。そしてそれは、生きていく上で最高のスキルのひとつとなった。
「二次は、何だ?」
「実戦じゃないでしょうか」
「やっとか!」
「嬉しそうですね」
「俺は頭を使うより、身体を動かす方がいい。一次試験のような難しいやつは、どうも苦手だ」
「……それは、納得できます」
今までのやり取りを見ていると、アルフレッドは頭脳で論理的に物事を判断し結論を出すのではなく、脊椎反射による行動が目立つ。以前、修行の為に世界中を回っていたと言っていたが、脊髄反射で普通に生きてこられたのが奇跡に等しい。それに旅に出る以前も、同じように生活を送っていた。
一種の珍獣か――
ふと脳裏に、ラルフの顔が思い浮かぶ。それも、馬鹿笑いしている表情が。このアルフレッドは、ラルフといい勝負が行えそうな人物。この両者は一見対照的に見えなくもないが、生き方そのものが脊髄反射であり、それに不可思議な言動と行動は日常茶飯事のようなのでアルフレッドも「珍獣」という名前に相応しい、特殊な生態系の中で生まれた人間である。


