ロスト・クロニクル~前編~


 彼女が置かれている状況は、想像以上に複雑。それであったとしたら、周囲を取り巻く守護者は多い方がいい。除隊三名を補充するか、それともシェラの為にと増やしていくか――

 エイルは国の内情を考えつつ、予想を立てていく。無論、周囲にいる者達も真剣な表情を浮かべ、これから行なわれる試験内容を固唾を呑んで待つ。しかし、アルフレッドは暢気だった。

「なあ」

「何ですか」

「あの美人は、誰だ」

「美人って、貴方は……」

 試験内容をそっちのけに、美人の相手に目を奪われている。エイルはやれやれという素振りを見せつつ、アルフレッドが示した相手に視線を向けた。すると次の瞬間、表情が強張った。

「親衛隊の副隊長です」

「おお! そうなのか」

 エイルの説明に、アルフレッドの瞳が輝きだす。副隊長のリデルの登場に親衛隊の面々を含め試験を受けに来た者達の間に、尊敬と憧れが含んだ溜息が漏れる。流石、性別と年齢を問わず多くのファンを持つリデル。彼女の人気の高さは、王家に匹敵するものがあった。

「生で拝めたぜ」

「下品ですよ」

「美しい者を美しいと表現したまでだ」

「はいはい。わかりました」

「エイルは、そう思わないのか!」

「エイル?」

 呼び捨てされたことに、エイルは反射的に睨み付けてしまう。外見上、アルフレッドが年上なのだが、初対面に近い人物に呼び捨てされる権利も理由もない。だが、アルフレッドは気にしていない。それどころか、リデルを美しいと思っていないことに食い付いてきた。

 エイルにとってリデルは、優しい姉。美しいとか綺麗とか、その枠に納めることができない。といって、アルフレッドにそれを一から説明する気は全くない。要するに、面倒であった。

 理由を知りたいアルフレッドはしつこく食い下がってくるが、エイルは適当にはぐらかしていく。刹那、周囲に漂う気配が一変する。それはリデルが姿を現した時の華やかさとは異なり、張り詰めた緊張感が人々の身体を襲う。理由は、姿を表した人物が殺気に似た威圧感を放っていたから。