ロスト・クロニクル~前編~


 別に、褒められるものではない。それに、これがメイドの仕事。主人から給料を貰っているので、真面目に仕事をしなければいけない。何より不真面目と判断されてしまうと、給料は半減。最悪の場合、暇を出されてしまう。それにより、マナはきちんと仕事をしていた。

 勿論、他のメイド達も課せられた仕事を一生懸命にこなしている。それが関係し、屋敷の中は常に美しく輝いていた。主人夫妻が優しい人物であると、使用人の性格も比例していく。一部分でそのように語られているが、それを見事に表しているのがこのバゼラード家だった。

 いまいち期待した反応を示さないマナに、エイルは苦笑してしまう。「謙遜しなくていい」と言うが、マナは正直な気持ちを述べていく。当たり前の仕事をしているので、それ以上の言葉は無用。だが、エイルの言葉は続いていく。その為、徐々にマナの顔が赤く染まっていった。

「……有難うございます」

「何?」

「い、いえ」

「そう。で、繕いは?」

「それは、掃除の後に――急いだ方が、宜しかったでしょうか。それでしたら、今すぐに――」

「いや、いいよ。仕事が早いから、てっきり繕いが終わっていると思って。急がなくていいよ」

 無論、エイルは悪気を込めて言ったのではない。相手は根っからの真面目人間で、尚且つ仕事を完璧にこなさないといけないと思っているので、今の言葉を本気で受け止めてしまい、徐々に顔の赤みが消えていく。しかし、人間は完璧な生き物として形成されているわけではない。特にラルフがそれを見事に証明しており、これくらいの失敗でへこまなくていい。

 マナはラルフというぶっ飛んだ生き方をしている人間が、この世界に生息しているというのは知らない。そして彼を目の当たりにすれば、自身が持っている考え方が馬鹿馬鹿しく無駄に身体と心を縛り付けていることを認識するだろう。それほど、彼女は真面目だった。

「……メルダースの破壊神」

「それは、何でしょうか?」

「馬鹿者」

 真剣な面持ちでそのように語るエイルに、マナは目を丸くしてしまう。反射的に間の抜けた声を発してしまい、慌てて両手で口を塞ぐ。そしてエイルと目が合った瞬間、耳まで真っ赤に染まっていく。可愛らしい反応にエイルは微笑を浮かべと、元気を出してほしいと言う。