「勿論、合格を期待しているわ。でも、身体を第一に考えなさい。怪我だけは、本当にしないで」
「はい」
それ以上、言葉が続けられることはない。しかしエイルは、母親の気持ちを理解している。そしてシーナは、過度の心配は逆に負担になってしまうことに気付く。その為、互いに口をつむぐが、思いは通じていた。それが親子というものでエイルは、最高の笑顔を作った。
二階の私室の扉を開いた瞬間、エイルは我が目を疑った。
この部屋は、一体――
一瞬、別の部屋に入った錯覚を覚えてしまう。
しかし部屋の中に並んでいる家具は間違いなく自分の物だが、綺麗に掃除され光り輝いている。
「……嘘」
朝食を食べている間に、何が起こったというのか。エイルは腕を組み、懸命に記憶を辿っていく。その時、マナの顔が脳裏を過ぎる。そう、彼女に頼みごとをしていたのだ。だが、肝心のマナの姿が見当たらない。それでも、仕事をしていたと思われる痕跡は残されていた。
「マナ?」
「何でしょうか」
後方から、少女の声が響く。それはタイミングを計ったかのように投げ掛けられ、エイルは反射的にか細い声を上げてしまう。エイルは恐る恐る振り返ると、目の前に水を湛えたバケツを持ったマナが立っていた。勿論、相手も驚いた表情を浮かべている。しかし互いの視線が合った瞬間、同時に口を開く。だが、互いの声音が混ざり合い、上手く聞き取れない。
「どうぞ」
「エイル様が、お先に――」
「えーっと、掃除はマナがした?」
「はい。片付けてほしいと、仰っていましたので」
「早いね」
「慣れておりますので」
その言葉にエイルは、凄いという正直な感想をもらす。メルダースで定期的に掃除・洗濯を行っているエイルは、それらが大変な仕事と認識していた。それらを毎日行い、尚且つ文句を一切言わないメイド達は偉いと関心するのだが、マナの反応は至って普通であった。


