ロスト・クロニクル~前編~


 精神面も何処か似ており、特にシーナはイルーズ以上に心配してしまう。差別という表現を用いる者も存在するだろうが、それは根本的に違っている。そう、エイルは一族の名を背負う。

 勿論、イルーズも同じように背負っているのだが、バゼラード家は親衛隊を排出している一族。意味合いでは、エイルの方が重圧だ。だから、朝食時のフレイの言葉が厳しかった。

「気を付けて」

「わかっています」

「相変わらず、敬語ね」

「あっ! 癖で」

 メルダース入学前は、母親とイルーズだけには敬語を使っていなかった。しかしクリスティを含め教師達に敬語を用いて生活を送っていたので、癖になってしまったらしい。そのことにシーナは、口許に手を当てるとクスっと笑う。そして、家にいる時は敬語を使わなくていいと言う。

「……そうですね」

「敬語よ」

「いきなりは……無理」

「四年の年月は、貴方を変えたわ」

「まあ、色々な意味で」

 自身の変化は、自身が一番わかっている。特に、ラルフに出会って性格面に変化が生じた。今では平気に手を上げ「黒エイル」と、一部の生徒から恐怖の対象として見られている。だが、大半の生徒からは「ラルフの執行者」や「魔導研究会へ唯一対抗できる存在」と、崇められている。

 メルダースの中で一定の地位を築いているというのは、以前のエイルの性格を考えれば信じられない。そして両親と兄は、当時のエイルを思って接している。確かに性格は変化したが、それは良い面の変化と思っている。だが、真実は残酷すぎる。そう、エイルは――

 両親と兄は、真相を知らない。いや、知られてはいけない。間違ってこのことが耳に入ってしまったら、シーナはどのような表情を浮かべるか。そして、フレイとイルーズの反応は――想像しただけで、背中に冷たい物が流れ落ちる。それに加え、顔色が悪くなってしまう。

「どうしたの?」

 顔面蒼白の状態で俯いている息子に、シーナは優しく言葉を投げ掛ける。その声音にエイルは、ハッと顔を上げると過敏に反応を示す。そして、反射的に言い訳を言ってしまう。真顔でそのように言うエイルに、シーナは目を丸くする。しかし次の瞬間、互いに噴き出していた。