エイルは、一種の勉強馬鹿。日頃、ラルフ相手に暴力という名の運動はしているが、あれは本格的な運動の部類に入らない。殴る・蹴る・踏み付ける――その種類は多いが、身体を鍛えるまでに至らない。一部でストレス発散にはなっているが、それは重要な点ではない。
「父さん」
「何だ」
「その……」
「試験のことか?」
「それも関係しているけど、別のことです。試験の中には、体力面を見る内容が存在すると聞きますが……」
「そのことか?」
フレイの言葉に、エイルは無言で頷く。自信がないと言えば、嘘になってしまう。試験の大半が、学力テストならいい。そう思ってしまうが、親衛隊はそれだけで済まされる職業ではない。そのことが深く関係しているからこそ、身体が弱いイルーズが試験を受けられないのだ。そして自身が呼び戻された理由を考えれば、何が何でも試験に合格しないといけない。
「今は、無理だ」
「今?」
「試験が終了したら、覚悟しておけ」
「それって……」
「あれということだ」
「……やっぱり」
「頑張れ」
二人の会話の間に割って入ってきたのは、イルーズの言葉。そして“あれ”というのは、メルダース入学以前に定期的に行ってきた武術訓練。幼い頃から、息子を親衛隊の一員にしなければいけないと考えていたフレイは、イルーズに代わってエイルを厳しく鍛えてきた。
エイルがラルフ相手に使用している、複雑な関節技。これはフレイから護身用に習った技であるのだが、今はラルフ虐めに利用している。勿論、このような目的で覚えた技ではないが、ラルフ相手に使用しているので日々進化していった。しかし、剣の腕前は上達していない。
そう、エイルは関節技以外に剣術を習得していた。だが、メルダースでそのことを知っているのは学園長のクリスティと教頭のジグレッドの二人。それは「別に、言う必要はない」という理由と、クリスティの性格が関係していた。「男は、秘密を持っている方が素敵」という個人的な感覚によってエイルの技術面は隠されていたが、それはそれで有難かった。


