攻撃魔法の初級系列は、ある程度の魔法の才能で使用することができるという。
だが回復の初級魔法は、簡単に使用することはできない。
いくら才能がある人間でも、必ず失敗してしまう。
そのような魔法をエイルは、基礎を学ばずに使おうとしていた。
回復魔法を教える教師が知ったら、何と思うだろう。
賛同はしないだろうが、止めることはない。
そう、エイルは確信があった。
今回の対象者はフランソワーで、第一ラルフに対しての信頼度はかなり低い。
「これにしようかな。こら、行くな」
その時、大人しくしていたフランソワーが急に動きはじめた。
その微かな動きを見切ったエイルは、今度はインクが大量に入っていた瓶を投げつけた。
それは半円を描くように空を舞うと、頭に直撃する。
そして鈍い音と同時に、インクがフランソワーの顔面を黒く染め上げた。
「恨むのなら、君の飼い主を恨むといいよ。飼い主の性格が良ければ、君は皆から好かれていたかもしれない。あくまでも“かも”だけど。何せ君は、オオトカゲと呼ばれる生き物だから」
この学園で、オオトカゲを好きという生徒は果たして何人いるというのか。
特に女子生徒の評判は悪く、フランソワーを見れば悲鳴を上げる者や中には攻撃魔法を詠唱する生徒までいた。
ラルフは見た目がいいが、性格がおかしな方向に歪んでいる。
これで性格が普通であったら、女性と付き合っていただろう。
彼女が欲しいと洩らしていたことを思い出したエイルであったが、流石に「性格を改善した方がいい」とは言えない。
それは、言ったところで改善されないと確信していたからだ。
「さて、実験台になってもらうよ。多分、失敗する確立は高いけど……まあ、そうなったら恨むなよ」
本能的に身の危険を感じ取ったのだろう、フランソワーは首を力強く左右に振り拒否を示した。
それを見たエイルは「おかしなことを躾る」と、溜息をつく。
このようなことを教える暇があるのなら本当に大切なことを教えるべきだろうが、相手が相手だけにそれは無理な相談。
刹那、絶叫と共に何かが図書室に近付いて来ている。
それは、ドタドタという耳障りな足音。
一体、誰が来たのか――と、エイルは不思議に思いつつ首を傾げていると、力任せに扉が開いた。
そして目の前に立っていたのはラルフであり、その表情は鬼気迫るものがあった。
どのような方法で愛するペットの気配を察したのかエイルにはわからなかったが、このように居場所を見付けたということは凄いとしか言いようがない。
これもまた、精神的な繋がりが関係しているのだろう。
一人と一匹の人知では計り知れない神秘な一面に、エイルは驚く。


