ロスト・クロニクル~前編~


 全ては、夫フレイの言い分で動いている。

 所詮、妻の役割は――

 それにシーナは、自己主張が強い方ではない。それでも、息子を心配しているというのは伝わってくる。母親の愛情を感じ取ったエイルは、我儘や言い訳を繰り返してはいけないということに気付く。

 親衛隊の試験は、イルーズの代わり。

 その兄は、目の前に腰掛けている。

 一方の自分は――

 無論、一族の名前に重点を置かないといけなかった。しかしエイルは、非情と呼ばれる人間ではない。親衛隊の試験という重要な出来事にも私情が混じり、何より母親の気持ちを大切にしたかった。それは、決して母親が恋しいという理由ではない。ただ、辛いと思う。

 エイルは白いテーブルクロスが敷かれたテーブルの上に置かれているフォークを手に取ると、プレーンオムレツを口に運ぶ。砂糖が少ない卵の味を前面に出したオムレツは、料理人の腕が高いのかとても美味しい。基本的にエイルは濃い味付けは嫌いなので、この味を好む。

「どうだ?」

「美味しいです」

「それは、良かった」

「その……飲み物が欲しいです」

「何がいい」

「紅茶?」

「それでいいのだな」

「はい」

 何故か、疑問を含んだ言葉が出てしまう。相手はエイルの家族なので、勿論遠慮することはない。しかし、遠慮が先立つ。やはり四年間という年月が影響しているのか、複雑な心境に陥ってしまう。

 フレイは顔色が優れない自身の息子に溜息を付くと、メイドに紅茶を用意するように言う。そして、再び口を開いた。それは、これから開催される親衛隊の試験についての話だった。

「多分、大丈夫です」

「それならいいが」

 試験を受ける者に重要なのは、二種類の力が必要となる。知力と体力――その両方が混じり合い、親衛隊という身分に辿り着く。エイルは知力の面では、特に気にする必要はない。メルダースで常に上位の位置にいるのだから、これに関してはすんなりと通過できる。問題は体力の面。