食欲は、多い方ではない。確かに、メルダース入学前よりは食べられるようになった。だが、目の前に並べられている料理を全て胃袋に納める自信はない。この半分で、丁度いい。
綺麗な色で焼かれた硬いパンと丸いパンに、砂糖と乾燥果物が入れられたヨーグルト。それに、山盛りに近いプレーンオムレツとサラダ。そして、昨夜の残り物のパイ包みの半欠け料理が皿の上に乗っている。
北国の食料事情は他の国に比べて高い方ではないので、昨日の夕食の残り物が翌日の食卓に並ぶことは、クローディアの家庭では一般的な光景であった。それは、貴族の食卓も同じ。
「これ、全部?」
「勿論だ」
「残さず、食べるように」
「う、うん」
これは、両親からの愛情か。並べられている料理の数々は、栄養価が高い。親衛隊の試験を万全の態勢で受けてもらいたい為に、これらの料理を用意したのだろう。しかしエイルは、両親の気持ちを最初から裏切っている。その大きな原因が、徹夜で勉強したということだ。
それなら栄養を取らないといけないのだが、胃袋に入る量にも限界がある。その為、なかなか手を付けようとはしない。それを見たイルーズは、どうして食べないのか尋ねてくる。
「食欲が……」
「具合が、悪いのか?」
「大丈夫です」
「それなら、食べないといけない」
「わ、わかっています」
メルダース在学中、朝食は食べるより食べない時の方が多い。それだというのに、この量を食べろというのは地獄に等しい。だが、エイルに向けられている視線が全身に突き刺さり、残すことを許してくれない。すると今まで沈黙を続けていた、母親のシーナが口を開いた。
「本当に、大丈夫?」
「だ、大丈夫です」
「そう……」
それは、意味深い台詞であった。フレイは親衛隊の試験を何が何でも合格してほしいと思っているが、シーナは違った。自身の息子の将来を勝手に決めてしまっていいのか、という後悔が強かった。しかしバゼラード家は代々親衛隊を排出している一族なので、それを口に出すことはできない。


