ロスト・クロニクル~前編~


 それにより、エイルは過度に無理をしてしまう。しかしその意見に、イルーズは溜息をつく。メルダースの卒業も勿論大事だが、今は親衛隊の試験が重要だという。すると今まで沈黙を保っていた、父親のフレイが口を開く。そして発した言葉は、厳しい意見が含まれていた。

「体調管理は、できないのか」

「……多分」

「曖昧な答えだ」

「勉強に、集中すると……」

「何?」

 それ以上の言葉を、続けることができないでいた。言い訳を続けるエイルに向かい、フレイは鋭い眼光を向けていたからだ。流石、元王室親衛隊の隊長。引退しても、纏う迫力は今でも健在。年齢は今年で五十を迎えるというらしいが、年々迫力を増していく雰囲気だ。

 フレイとの付き合いが長い人物の間では「気のいい人物」と言われているらしいが、エイルにしてみれば恐ろしい父親。勿論、イルーズにも同じ印象を抱いている。流石、親子というべきだろうか。フレイとイルーズは、性格というか根っこの部分が鏡に映したように似ていた。

 将来――

 ふと、イルーズの未来を思い浮かべる。

 髪と瞳の色は、両者は同じ。それに性格も一緒となれば、フレイの姿は未来のイルーズだ。想像した瞬間、エイルは顔を歪める。朝から、何を考えているのか――瞬時に、後悔の念が広がった。

「どうした?」

「な、何でも……」

「そうか」

「疲れているようです」

「自覚しているのならいい」

「……はい」

 間髪いれず、フレイから鋭い指摘が返って来た。無意識に発した言葉は、自身の破滅を招く。エイルは反射的に口を塞ぐが、遅かった。それを証明するように、イルーズの二度目の溜息が響く。勿論、それは態とやっているのではない。エイルの不甲斐無さに、嘆いていたのだ。

 寝坊して、廊下で転んでしまう。そして鼻血を流し、今はフレイとイルーズの言葉が全身に突き刺さる。朝から踏んだり蹴ったりのエイルの表情は、徐々に悪くなっていく。しかし、愚痴ったところではじまらない。エイルは椅子に腰掛けると、朝食を取ることにした。