部屋の中では、両親とイルーズが椅子に腰掛け紅茶を楽しんでいた。そしてエイルの姿を見るなり、淡々とした口調で先程の悲鳴の原因を尋ねる。その質問にエイルは、即答できない。廊下で、転んでしまった。それは恥ずかしくて情けなくて、みっともなかったからだ。
しかし、イルーズに嘘は付けない。だからエイルは、正直に先程の状況を簡略的に話しだす。
「……転んだ」
「だから、その顔をしているのか」
「そんなに、酷いですか?」
「鼻血が、出ている」
「えっ!?」
イルーズの言葉に、エイルは反射的に鼻に触れた。すると生暖かい液体が、指先に纏わり付く。それは、正真正銘の鼻血。廊下に打ち付けた当初は流れ出していなかったが、時間の経過と共に鼻から溢れ出てきたのだろう。顔を汚す血液に、エイルはしまったという表情を浮かべる。
「これで、拭くといい」
「……はい」
手渡されたのは、白いナプキン。それを受け取ると同時に鼻の周囲を拭くと、視線をナプキンに落とす。
すると、白の中に深紅の色が混じっていた。イルーズが示したように鼻血が出ていたが、量は少ない。そのことにホッと胸を撫で下ろすエイルであったが、鼻血とは――縁起が悪い。
ふと、エイルはテーブルの上に並べられている料理の数に驚く。それに両親とイルーズは、食事を終えていた。早い食事にエイルは率直に疑問をぶつけると、イルーズは肩を竦めていた。どうやらこの質問はしてはいけない内容のようで、遅い時間まで寝ていたエイルが悪いと返されてしまう。
「先に、食事を終えた」
「……すみません」
「徹夜か?」
「う、うん」
「昔から、変わっていないな」
「それは……」
厳しい言葉の数々に、エイルは返事を返すのが精一杯だった。勿論、今日が親衛隊の試験日ということを忘れていたのではない。エイルにしてみればメルダースの勉強も重要で、両方の結果が重要だった。親衛隊の試験に合格しても、メルダースを留年したら何にもならない。勿論、逆も当て嵌まる。


