どちらかといえば、エイルはマナ達に似ていた。庶民的で、決して貴族の息子ということを鼻にかけない。マナが知っている貴族の子息や子女は、自身の立場を当たり前と思いひけらかす。しかし彼等や彼女達は、その者自身が偉いのではない。それだというのに――複雑な心境に陥る。

 それが全てに当て嵌まるわけではない。マナは、今の仕事場で働けることが幸せだった。エイルの買い物に関して驚かされたが、あれくらいは苦痛ではない。そう、昔に比べれば――

 それに――

「本当に、良かったのかしら」

 エイルは約束通りにリンダの「勉強」について、頼んでくれた。当初、リンダはいい顔をしていなかったが、最終的には了承してくれた。エイルが頼んできたということが主な理由と考えられるが、本当はリンダの優しい一面が関係していた。そう、彼女はメイド達を大切にしている。

 リンダは多くを語ることはしないが、内心は嬉しいという感情を多く持っていたに違いない。メルダースで高い学問を受けているエイルに、勉強を見てもらう。これほど、恵まれた環境は他にない。確かに最低限の読み書きはできるが、それ以上の学問を学ぶのは難しい。

 機会を得たマナは、幸せ者。

 その為――

 これは、一種の親心というもの。しかしマナはそれに気付いていなかったが、心の底から感謝していた。

「……頑張らないと」

 高い知識を学習したいと宣言した手前、それなりの心構えをしておかないといけない。それ以前に、万全の体調を整えないといけなかった。風邪をひきエイルにうつしてしまったら、問題に発展してしまう。

 それに親衛隊の試験が落ちてしまったら――

 そう考えたマナは、掛け布団を捲ると急いで中へと潜り込む。そして明日に備えて眠りにつくことにしたが、なかなか寝付くことができない。興奮し、意識が覚醒してしまうのだ。

 それでも、不用意に布団の中から出るわけにはいかない。クローディアは夜を迎えると一気に気温が低下するので、油断していると風邪をひく。それを知っているので、マナはスッポリと掛け布団を被った。

 暫く布団に包まっていると、自身の体温で徐々に布団の中が温かくなってくる。気持ちいい温もりに興奮していた意識が安らいでいき、徐々に眠気が襲ってくる。マナは被っていた掛け布団から頭を半分出すと、うつらうつらとしている意識の中で周囲に視線を走らせた。