回復魔法の取得方法はこれらのやり方が支流となっているが、誰も自分自身の身体を傷つけてまで覚えたいとは思わない。
それに魔法に失敗してしまえば、確実に痕が残ってしまう。
これほどリスクが高い魔法は存在せず、何より「痕を残したくない」という理由で、女子生徒はいない。
だからこそ、このように回復魔法の練習台が見つかったことは喜ばしい。
エイルは踏み付けていた尻尾に何度も捻りを咥えていくと、口許を歪ませ悪魔の微笑みを浮かべる。
其処には、真面目なエイルの姿はなかった。
「まず躾の前に、魔法の練習だね」
エイルはカバンの中に入れてあった回復魔法の専門書を手に取ると、簡単な魔法を探しはじめる。
その時、一瞬の緩みが生まれた。
その隙に逃げるフランソワーであったが、それを見逃すはずがない。
「逃がすか!」
素早い動きでペンを握ると、逃げ出すフランソワー目掛けて投げ付けた。
正確なコントロールで投げられたペンは、フランソワーの目の前に突き刺さるとその動きを止めた。
そしてエイルの容赦ない行動に完全に諦めたのか、銅像のように固まり全身から嫌な汗を流す。
「はじめから、そうしていれば良かったんだよ。いけない子だね、フランソワーちゃん。飼い主も同類だけど」
台詞の最後が、やけに低い。
レポートを食べてしまったフランソワーもそうであったが「やたら拾い食いするな」と教えていなかったラルフにも責任がある。
いや、この場合全てラルフが悪い。
当初フランソワーを回復魔法の実験台にする予定であったが、ラルフを実験台にするのも悪くないと思いはじめてくる。
この魔法は人間相手に使用する力なので、生身の肉体で使用して効果を確かめたい。
恐ろしい考えと思われるかもしれないが、何事にも尊い犠牲はつきもの。
しかし相手がラルフであったとしても、人体実験は慎重に行わないといけない。
そうなると、必然的にラルフが飼育しているフランソワーが適任となってしまう。
寧ろ周囲からは、やっていいと了承を得ることができるだろう。
フランソワーに襲われた生徒は数知れずいるのだから。
「やはり、一番簡単な魔法がいいか。いきなり難しいのを使用しても、失敗したら嫌だし……」
飼い主となる人物は一応友人関係にあるので、その辺りは考えてあげることにする。
間違って殺害でもしてしまったら、恨まれることになるだろう。
あのように見えて、ラルフはしつこい性格の持ち主だ。
だが、一番簡単な魔法といっても、回復魔法の難しさは攻撃魔法以上である。


