ロスト・クロニクル~前編~


 それは――

 恋愛は二の次。

「エイル様には、彼女は……」

「いないよ」

「人気があると、思いました」

「そうかな?」

「メイド達の間では、人気です。それに、多くの者達が……その……いい意見が、多かったりします」

「買い被りすぎ」

 このように評価を下されると、苦笑いしか出ない。どの部分を見て、メイド達は褒めているのか。確かに今まで道を反れたことはないが、それは当然のことであってエイルは偉いと思っていない。逆にそれが「普通」と思っており、メイド達の言葉が苦痛として圧し掛かる。

 一方、メルダースでは――

 エイルは気付いていないが、彼の人気は予想以上に高い。友人が多く、いつも多くの生徒達が周囲に集まってきている。勿論、中に「エイルと付き合いたい」と、思っている生徒がいるというが、そのことも気付いていない。やはり、彼は本の虫。恋愛は、頭の中になかった。

「ですが……」

「そうだね。嬉しいよ」

「その……頑張って下さい」

「どうしたの? いきなり」

「メルダースの勉強もそうですが、親衛隊の試験もありますので。エイル様は、本当に凄いです」

「有難う」

「私は、真似できません」

「まあ、これは仕方ないから」

 別世界で暮らしている者へ贈ることができる物といえば、このような簡単な言葉のみ。しかし、エイルは嬉しかった。これは、裏表が無い気持ちが込められた言葉であったからだ。

 その時、エイルはひとつの特徴に興味を抱いた。マナは――そう、彼女は普通の女性と何処か違っていた。

 雰囲気と立ち振る舞い。その両方は、明らかにバゼラード家で働いているメイド達とは、異なっていた。大人しいという言葉で表現も可能であったが、メルダースの中にも大人しい女性はいる。その人物とは、明らかに違っていた。第一に付き合い易く、何でも言える相手。