そして、話を別の方向へ持って行きたかった。それなら、どうすればいいのか。マナは周囲を見回すと、大量の書物が視界に飛び込む。無論、どのような内容が置かれているのか知らない。しかし本棚から適当に一冊手に取ると、マナはそれをエイルの目の前に突き出した。
「エイル様!」
「何?」
「これを……教えて下さい」
「無理」
「難しいのですか?」
「そういう意味じゃない」
エイルは「教えて欲しい」という願いに、困惑状態であった。マナが無意識に差し出したのは、俗に言う恋愛小説。それもベタベタの甘い内容が含まれる、男が嫌厭(けんえん)する小説であった。
一体、これから何を学びたいというのか。それに複雑な恋愛関係は、エイルにしてみればメルダースのテスト以上に難しい分野であった。それに恋愛に参考書という物は存在せず、恋愛の仕方を他人から学んでどうこうできる問題ではない。それなら、エイルの恋愛事情は――
残念ながら、初恋の経験は一切ない。
その人物から、何を――
「……これ」
「えっ! す、すみません」
「恋愛小説は、好き?」
「……少しは」
「女性が好きなジャンルだよね。恋愛か……確か、メルダースの生徒の中も恋人同士の人物がいたよ」
「勉強は、いいのでしょうか?」
「多分、大丈夫じゃないかな」
恋愛そっちのけで勉強をしているエイルにしてみれば、彼女を作って仲良くやっている生徒達の考え方はいまいち理解できないでいた。そのような時間があるというのなら、エイルは勉強を優先してしまう。彼は、常に成績を一定の位置を留めていなければいけない。それが両親と兄との約束事であり〈バゼラード〉という一族の名前を、背負っていたからだ。
入学当初からエイルは「本の虫」と、多くの生徒と教師達に呼ばれている。これは、彼にしてみれば褒め言葉であり、そのように呼ばれているということは、勉強を真面目に行っていると見られている証拠だ。それはそれで嬉しいものだが、同時に弊害も生まれてしまう。


