最低限の文字の読解は、可能だった。
それ以上は――
その時、エイルが探している物の内容を知りたいという感情が湧き出す。マナは横目で表紙を一瞥してみるが、ハッキリ言って未知の分野だ。題名を読んでも、内容が思い浮かばない。
(……凄い)
エイルは、自身と別の世界で生活している。それを改めて認識した瞬間、溜息をついてしまう。
人間という生き物は――
刹那、そのようなことを考えてしまう。
全ての人間は、一定の水準の生活の保障と平等の生活が約束されている。しかし、それが正しいとは限らない。別に、神官達が信者達に教えていることを批判しているのではない。
だが――
現実は、差が生じている。
現に、両者の差がそれを見事に証明していた。エイルの話では、メルダースの入学に「金持ち」という概念は関係ないらしい。だが、多くの者達が希望を現実にすることはできない。
無論、学力が一番大事。それでも、金は無いよりはあった方がいい。メイドとして日々苦労しているマナは、金の裏表と汚い一面を知っている。そして、金が人間の運命を左右することも。
「退いて」
「は、はい」
「どうかした?」
「い、いえ……」
「ああ、リンダの件?」
「ち、違います」
「それじゃあ、勉強の件?」
正しい意見と思い話しているらしいが、全て的外れ。エイルは「寛恕(かんじょ)」という言葉が似合う人物なので、事実を吐き出したところで何ら差し支えはない。だが、一歩踏み出すのに必要な勇気が湧いてこない。それに苦しく心が締め付けられ、鋭い爪で掻き毟られていく。
苦しい思い出は、長い年月の間その人物を苦しめていくという。現にマナはそのような思いを持っていたが、それを知っている者は少なかった。何より、そのことを誰かに相談した訳ではないからだ。それに今、そのことをエイルに気付かれたくなかったので、気丈に振舞う。


